9話 このドスケベ!


 9話 このドスケベ!



(――おい、虹色ジャンキー、返事しろ。ちょっと話がある)



(呼ばれているぞ、虹色ジャンキーとやら。返事をしてやったらどうだ? シカトするのは可哀そうだろう。このセンエースという変態は、ただでさえ、だいぶ可哀そうな男なのだから、これ以上、追い打ちをかけてやるな)


(てめぇだ、虹色クソ野郎! イラつくスカシかましてんのも、外道すぎる追い打ちで俺をメッタ打ちにしているのもぉ!!)


(どうした、そんなに鼻息を荒くして。ははーん、さては、貴様、今夜のことを想像して、興奮しているな? このドスケベ)


(……はじめてですよ……ここまで俺をコケにしたおバカさんは)


 あまりの怒りにヒクついていると、

 そこで、茶柱が、


「センセー、なにを、そんなところで突っ立って、顔をヒクヒクさせているのかにゃ? ははーん、さては、センセー、今夜のことを想像して、興奮しているにゃ! このドスケベ!」


「……なんで、俺のまわりには、『ジワジワとなぶり殺しにしないと気がすまない、絶対に許せないヤツ』であふれているんだ? 俺が何をしたっていうんだ。これまで、悪いことなんて一切せず、一生懸命、マジメに努力を積んできた俺が、なぜ、こんな目にあわないといけない? この世には神も仏もいないのか?」


 ぶつぶつと、自分の人生に対して文句を垂れていると、

 ヨグシャドーが、


(仏は知らんが、神なら頂点がここにいる。なんでも相談してくるといい。他でもない貴様の願いならば、気分次第で、叶えてやらないこともない)


(……『気分次第』という枕が気になるところだが……しかし、俺を特別扱いしてくれようとしているその心意気が気に入った! 頂点にいる神様! 伏してお頼みもうしあげる! どうか、私を、この危機的状況から救ってたもう!!)


(案ずるな、センエース。スタミナの心配なら無用だ。私が全力でサポートする。今宵の貴様は絶倫だ。四人同時相手でも余裕で舞える)


「……ダメだ……この頂点は使い物にならない……」


 天を仰いで絶望をつぶやくセン。


 そんなセンに、トコが、


「セン、いつまでどぎまぎしてんねん。ここまでついてきたんやから、腹くくりぃや」


「腹なら、とっくの昔にくくっているさ。今の俺は、どうすれば『ここから逃げられるか』という『魂の命題』と、フルの覚悟で向き合っている。諦めることをあきらめた男のコスモをナメるなよ。俺は、必ず、ここから生きて帰り、孤高の世界に戻ってみせる。絶対にだ!」


「なに言うてんのか、サッパリわからへん。ええから、こっち座りぃ」


 と言いながら、『空いている自分の隣』をポンポンとたたく。


 はらをくくった女の強さ。

 ソレを前にした時の男は脆い。


「……」


 センは、どうするべきか悩んだ。

 散々、悩んだ。

 頭の中で、無数の言葉が浮かんでは消えた。


 何をするのが最善なのか、

 今のセンは完全に見失っている。


 『逃げたい』という本音と、

 『逃げちゃダメだ』という強がりが、

 頭の奥で、互角の殴り合いを続けている。

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