8話 愛らしいガールズトーク。


 8話 愛らしいガールズトーク。



「やっぱり、我が家は落ち着くにゃぁ」



 などと言いながら、わが物顔で居間のソファーにゴロンと横になる茶柱。


 そんな彼女に、紅院が、冷めた顔で、


「……ツミカ、あんた、この家に足を踏み入れたのは、今日が初めてでしょ。なのに、どうして、そこまで光速でくつろげるのよ」


「ツミカさんは、万能の天才だから、適応能力も当然、ハンパないのにゃ。ツミカさんの適応力をもってすれば、『はじめましてのソファー』を、『長年愛用してきたコタツ』にしてみせることもワケないにゃ」


 意味不明のオーケストラが萌ゆる茶柱に、

 トコが、こめかみを指で押さえながら、


「おどれは、錯綜した発言しか出来ん呪いにでもかかっとんのか?」


 ため息交じりにそうつぶやきつつ、ソファーの開いている個所に腰を落とす。


 そんな彼女を尻目に、黒木は、居間を見渡しながら、


「めちゃくちゃな豪邸ですね。五人で住むにはちょっと広すぎて、逆に鬱陶しいレベルです」


 感想を述べつつ、茶柱が寝転んでいる隣に腰かけ、


「確か、この家、御父様からのプレゼントでしたっけ?」


「正確に言うと、結婚祝いでもらった5000億の中から払ったわ。値段は600億くらい。本当は、一から設計したかったけれど、さすがに、時間がなさすぎるからね。すぐに買える範囲内で一番マシなところを選んだわ」


「この家、600億もすんのかい。どこに、そんな金かかってんねん」


「建築素材に、金やプラチナが使われているらしいわ」


「世界一高い豪邸の値段は1兆を超えているらしいので、それと比べれば質素と言えますね」


「……『世界一のヒーロー』と『そのヒーローが溺愛している美しすぎる妻』が住む家にしては物足りないにゃぁ。ケタが8つ足りないにゃ」


「600京円の豪邸ってどないやねん。でかい飛行石が内蔵されとって、インドラの矢が撃てたとしても、そこまでの値段にはならん気がすんで。あと、これだけはハッキリ言うとくけど、ヒーローは、あんたのことを溺愛なんかしてへん。完全にウザがられとるだけや」


「やれやれ……『己が信じたい夢』だけを信じ、信じたくない現実からは目をそらす。そんなんだから、トコてぃんはダメなんだにゃ」


「鏡見てみ。山ほど、ブーメラン刺さってんで」


 ワイワイキャピキャピと、

 愛らしいガールズトークに花を咲かせる美少女たち。


 そんな彼女たちを横目に、

 センは、『この世の終わり』を見ているような苦々しい顔で、


「しんどい、しんどい、しんどい、しんどい」


 小さく、力なく、うめいていた。


 この豪邸に連行されるまでの間、

 センは、幾度となく、逃走をこころみたのだが、

 しかし、ことごとく、失敗に終わった。


 ヨグシャドーの妨害はすさまじく、

 狂気すら感じる執念さでもって、

 センの逃亡を全力で阻止してきた。


 瞬間移動は絶対に使えない。

 足を使って逃げようとすれば、

 目の前に『見えない壁』が出現して激突する。


 連行しようとする彼女たちの手を振り払おうとすると、

 全身が、軽くしびれてクラっとする。


(おい、虹色ジャンキー、返事しろ。ちょっと話がある)

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