65話 何かがどうにかなるかもしれない。


 65話 何かがどうにかなるかもしれない。


 なぜ、生まれてきたのか。

 なぜ、存在するのか。

 仮に、理由があったとして、

 自分という個体である必要はあったのか。


 ――そんな、根源的な悩みを抱えているクティーラ。


 プライドに振り回される者は、

 往々にして、自分に自信がない場合が多い。


 クティーラは、まさにそれだった。

 彼女は、確固たる自己を持たない。


 だからこそ、これまでは『プライド』に逃げていた。

 『クティーラ・ヨグカスタム』という神格に向けられる『恐怖』と『敬意』を貪欲に求めた。


 けど、本当に欲しかったのは、そんなものじゃない。


 じゃあ、何が欲しかったの?

 『その質問に自信をもって答えられる何か』が欲しかった。


 ――センエースを知った今でも、

 クティーラは、まだ、答えを得ていない。


 クティーラは、まだ自身の望みを理解していない。

 けれど、クティーラは、

 センの背中をみつめながら、



「あそこまでぶっ壊れた変態の眷属を勤め上げれば、もしかしたら、何かがどうにかなるかもしれない……」



 そんなクティーラの発言に対し、

 ガタノトーアは、苦味の塊でも噛みしめているかのような顔で、


「なにをどうしたいのか、ほんの少しでも具体的に言ってくれれば、助言のしようもあるんだが……そこまで、フワフワされると、こっちとしては何も言えないな」


「あんたの助言なんて必要ない」


 そこで、クティーラは、スゥウっと深呼吸をする。

 自分を整えるように。

 あえていうなら、

 自分を取り戻すように。


 シッカリと自分と向き合ってから、

 クティーラは、まっすぐに前を向いて、



「あたしは、クティーラ・センエースカスタム! 奈落を覗く宇宙的恐怖の具現! 深淵の女神! 外なる神に憧れた者! あたしは必ず! マスターに、あたしを認めさせる!」



 胸をはって、そう宣言した。


 センエースに、自分の存在を認めさせること。

 『それそのもの』が、本当に、クティーラの望みかといえば、

 実のところ、それもまた、少し違うのだけれど、

 しかし、『そこ』を求めていけば、いつか、

 『自分が欲して仕方のないもの』と、

 間違いなく、向き合える気がした。



 センエースと向き合う覚悟を固めたクティーラの向こうで、

 クティーラの主人であるセンは、周囲を警戒しながら、


(ガタノトーア、クティーラと、二体連続で高位GOOの襲撃……『これでいったん終了』か、それとも、まだまだ続々とやってくるのか……今のところは、まったく予測がつかねぇから、行動指針のたてようがねぇ……さて、どうする……何が最善……いや、この場合、最善を求めるよりも、最悪を回避した方がよさそうかなぁ……)


 ゴチャゴチャと、頭の中で、色々と、未来について思案していると、

 そこで、それまで黙って戦局を見ていたトコが、


「ジブン、ホンマにエグいほど強いなぁ……ドン引きを通り越して、ゲロ吐きそうや。マジで、ナニモンやねん」


 センに対して、心底からの呆れを口にした。

 センエースという存在が、あまりにも非常識すぎて、

 常に『感謝』よりも『疑念』の方が優先されてしまう。


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