63話 神話生物のSAN値を削る変態。


 63話 神話生物のSAN値を削る変態。


 キラっと歯を光らせる『さわやかな笑み』でもって、

 ブラック極まりない同調圧力をかけていくセン。


 『ゆとり世代以降の人間』ならば発狂してしまいそうな、黒い微笑みを向けられたクティーラは、


「……な、なに……この結晶……『努力』とか『頑張る』とか、そういう次元じゃない……ど、どうして、こんな…………ぃ、異常……頭おかしい……こわい……」


 センの力の一部になったことで、

 クティーラは、センの『シルエット』を少しだけ理解した。


 眷属になったからといって、センの全てを理解することは出来ない。

 そこまで、センの底は浅くない。

 けれど、対面しているだけの時よりも、

 眷属になった時の方が、『理解できること』は、遥かに多い。


 クティーラは、図虚空に捕食され、

 正式に『センの眷属』となったことで、

 『センエース』という概念の異常性を少しだけ理解した。


 少し。

 ほんの少しだけ。

 けれど、それだけでも充分だった。


 『ほんの少し』を理解するだけでも、

 『吐き気』を覚えるには十分だった。


 それほどまでに、

 センエースが積んできた日々は重たい。


 常識的な理解を拒絶する、

 発狂の向こう側に至った魂魄の限界。


 研磨に研磨を重ね、

 無間の絶望を飲み込んで膨らんだド級の変態性。


 クティーラは、恐怖した。

 自身が、『宇宙的恐怖の具現』でありながら、

 しかし、センエースという地獄に、心底からの恐怖を覚えた。


「むり……あなたの力にはなれない……あたしは……あたし程度は……そこまでの器じゃない」


 ブルブルと震え出したクティーラ。

 プライドに振り回されているだけの存在は、

 プライドを砕かれると脆いことが多い。


 クティーラは、典型的な、そっち寄りの生命体だった。


 もちろん、彼女の神生にも、色々なアレコレがあった。

 誰にだって歴史がある。

 高位の神格でも、それは変わらない。

 そんな『アレコレ』が重なり合って出来た器。

 その器に注がれたのは『強さ』だけじゃない。

 弱さと、脆さが、互いに互いを補い合って、

 ギリギリのバランスで、彼女の器を支えていた。


 それが普通。

 クティーラだけの特別ではなく、誰だってそう。


 けれど、センエースの器はそうじゃない。


 膨れ上がったキチ〇イをドロドロの狂気で煮詰めたような、

 宇宙的恐怖すら可愛く思えるエゲつない『何か』で満たされていた。


 だから、クティーラは、恐怖した。

 神話生物のSAN値を削るほどの狂気。

 それがセンエースの実態。


 あらためて、ヤバすぎる男である。


「お前が、将来的に、俺の力になれるか否かなんか、今、この時に考えたって仕方がねぇんだよ。とにかく、必死になって、今を積め。バカみたいに、何も考えず、ただひたすらに死ぬ気をこいて、一瞬、一瞬を積んでいけ。――もし、全部を積み重ねた上で、それでもダメだったその時は、『ああ、ダメだったね』で終わるだけの、簡単な話」


「……」


「言っておくが、誰もお前に期待はしてねぇ。ただ、可能性だけなら、なくはないんじゃなかろうか、と、俺は思っている。――『可能性だけ』でモノを言うのであれば『誰にだって芽はある』……と思っているかもしれがないが、しかし、実際のところはそうじゃねぇ」

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