42話 『彼女』だけは、センエースの正体を知っている。


 42話 『彼女』だけは、センエースの正体を知っている。



「トコの呪い……本当に解けている感じ?」



 センが去ったあと、

 屋上では、残された美少女たちが、

 『現状についての確認作業』と言う名の井戸端会議を行っていた。


 紅院の問いに対し、

 当のトコは、かるく首をかしげ、


「さあ、知らんけど……でも、まあ……解けたんちゃう? いや、まあ、解けたっていうか、発動した呪いを、さっきのあいつが吸収したって感じやろか? 知らんけど」


 ここでの『知らんけど』は無責任の丸投げではなく、

 純粋な『理解不足』。


 トコたちは、まったく、現状を理解していない。


「彼は、いったい、何者なのでしょうか? とてつもない力をもっていましたが……」


 黒木が、心底からの疑念を口にする。

 魂の片隅に、『記憶のカケラ』はかすかに残ってはいるものの、

 しかし、『明確な記憶』は存在しないため、

 余計に、強い混乱に襲われている。


 そんな黒木に対し、

 茶柱が、優越感全開&得意満面の笑みでもって、


「おやおや? マナてぃん、彼の正体を、ご存じない?」


 などと、そんな、ふざけたマウントをとってきた。

 黒木は、普通にウザそうな顔で、


「ツミカさん……なにか知っているのですか?」


 そう問いかけると、

 茶柱は、フンスとふんぞり返り、


「当然にゃ!」


 ドンと胸を張って、堂々と、

 まるで『この世の真理』でも口にしているかのような勢いで、


「彼は、異世界から転生してきた堕天使の死神。同じくこの世界に転生した絶世の女神であるツミカさんを救うため、地獄の業を背負いながらも、必死になって、ツミカさんのピンチに駆け付けてくれたのにゃ。つまり、彼の行動は、トコてぃんの呪いをとくためではなく、ツミカさんを救うためだった、とそういうことにゃ。いやぁ、愛され過ぎて困るにゃぁ」


「ほざき終わったか? ほな、ちょっと黙っとこか」


 しんどそうな顔で、茶柱の言葉を切り捨てるトコ。


 その横にいる黒木が、ダルさを全身で表現するように、

 タメ息をつきつつ、片手でメガネをクイっとあげながら、


「ツミカさん。多角的な視点で鑑みて、彼の行動は、『世界の終わり』を『止める』ことを目的にしていたとしか思えませんでしたが?」


 そんな黒木の発言に対し、

 茶柱は、


「はぁ~、やれやれ、これだから、マナてぃんは」


「そのムカつくタメ息、やめてもらえます? 本当に殺したくなってしまいますので」


「愛され過ぎたことがないマナてぃんには分からないかもしれにゃいけど、本当の愛を知る男というのは、愛する女を守るついでで、世界を守ることもできる……そういうもんなんだにゃ。そうして、愛と愛とが真に重なり混ざり合って、そして、自由になるのにゃ」


 両手を広げ、天を仰ぎながら、

 ラリった発言をする茶柱に対し、

 黒木はドン引きした目で、


「……えっと、ツミカさん、自分が、だいぶヤバいことを口にしているって自覚、あります?」


 狂人を見る目をしている黒木に、

 トコが、死んだような無表情で、


「もし、その自覚があったら、ここまで狂うわけないやろ。もう、ええから、ソレはほっとけ。もう、ぜんぶ手遅れや。もっと言うたら、最初から手遅れや」


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