26話 そして顕現する、虹色のニーチャン。


 26話 そして顕現する、虹色のニーチャン。



「心配するな、薬宮」



 どうやらセンは、ストレッチを終えたらしく、

 背筋を伸ばし、まっすぐな目で、トコを見つめ、


「まあ、たぶん、勝てんだろうけど……でも、まあ、うん。なんやかんやで、どうにかなるような気がしないでもない。知らんけど」


「あかん! こいつ、ヤバイ! ただのサイコや!」


 頭を抱えて絶望にひたるトコ。


 そんなトコに、センは堂々と、


「それは違うな。俺は、ただのサイコじゃない。激的に終わっているサイコだ」


「やかましわぁ! なに、キショいこと、ドヤ顔で言うてんねん! 形容詞の強度にこだわっとる場合か!」


「こだわっている場合なんだよ。俺の中ではな」


 そう言いながら、精神を統一させる。

 全力でオーラを練り上げながら、


「どこにでもいる『ただのサイコ』だと『アウターゴッドの相手』はつとまらねぇ。『とことん終わっている俺』だけが……この『クソったれな絶望』と向き合える」


 いつもは、『どこにでもいる普通の高校生』を名乗るくせに、

 土壇場では、『とことん終わっている変態』を名乗るという、

 あまりにも二枚舌がすぎる男、それがセンエース。


 いつだって予測不能、

 いつだって奇想天外。


 『だからこそたどり着いた世界』がある。

 その全てをむき出しにする覚悟を決める。


 チリチリと、

 空気がヒリついていく。


 様子が変わったことに、

 薬宮たちは気づく。


 エンターテインメントの時間は終わった。

 ここからは、命で命を洗う時間。




 ――まるで、『センが整う』のを待っていたかのように、

 いびつなジオメトリがパリィンとはじけた。




 弾けたカケラは、

 荘厳な粒子となって、

 華麗な渦(うず)をまきながら、

 ゆったりと、空へ昇っていく。


 天に寄り添うように、

 厳(おごそ)かにまたたいていた粒子は、

 いつしか、

 生命のシルエットを描き出す。


 無名の霧に包まれて、

 最果の絶対領域を刻み込む命の影。



 ――そして、顕現。



 人型の姿をとった化け物。

 虹色に発光しているローブを纏いし、

 透明の肌をした、ゾっとするほど美しい青年。






「ここは……『認知の領域外』か……」






 虹色の青年は、周囲を見渡しながら、

 ボソボソと、誰に言うでもないトーンで、



「いや、違う。『異なる』わけではないが……やはり、少し違う。これは、なんだ? 随分と特殊な『銀十字』のカルマ。盲目が霞む本能のノイズ。既定の時間軸ではない。錯綜している。絡まっているが、事故ではない」



 そこで、目を閉じて、天を仰ぎ、


「おそらく……仕組まれた? いや、違うな。これは……懇願? ……シャドーとはいえ、この私を引きずりだすとは……いったい、誰だ? ニャルのバカか? いや、あのバカが、こんな手間暇かかる面倒を実行するとは思えない。いや、私がそう思っているからこそ、逆に、あのバカは仕掛けてきうる――」


 最初から最後まで、一貫して、わけのわからないことをホザく虹色青年に、

 センは、


「ちょっと、そこの虹色なニーチャン。マキシマムで厨二力を展開させているところ悪いけど、少しだけ、俺の話を聞いてくれる?」


 あえて、軽いノリで、そう声をかけていく。

 そんなセンに、虹色青年は、


「貴様は?」


「俺? 見ればわかるだろ? どこにでもいる普通の高校生だよ。こんにちは」

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