19話 いつだって、独り、無限地獄に立ち尽くす。


 19話 いつだって、独り、無限地獄に立ち尽くす。


 心底楽しそうに、

 けれど、どこか、驚くほど真剣に、



「――それだけの絶望を抱えて……それでも、まだ足りないと言われて……それで、君はどうする?」



 ニャルは、そう尋ねてきた。


 センは、苦悶の表情を浮かべたまま、

 ソっと目を閉じる。


 脂汗がにじむ。

 胃がギュウっと締め付けられているのを感じる。


 全身の血管が透過性を見失って、盛大にゲロを吐きそう。

 脳脊髄液が、『勘弁してくれ』と泣き言をもらしている。


 すべての細胞たちが、

 『もうイヤだ』と大合唱している。




 ――それでも――




「どうするもクソもねぇだろうが。選択肢、どこにあるんだよ」




 センは、そうつぶやくと、

 ニャルに背中を向けて、

 アイテム探索を再開した。


 誰にも頼れない。

 何にもすがれない。


 全方位が闇で、道標となる光はない。

 このドップリとした闇の中で、

 もし、光になれる存在がいるとしたら、

 それは唯一自分だけ。

 命の最前線、その先頭に立っている自分だけ。


 そんな地獄の底の底で、

 センは、これからも、独り、闘い続ける。


 ――ニャルは、

 そんなセンの背中が見えなくなるまで見届けてから、



「――『1000回やって駄目だったら……その時は、当たり前のように、1001回目に挑戦してやるよ』――」



 いつかの『かつて』を思い出しながら、ボソっと、そうつぶやいて、


「くくく……」


 薄く、笑みを浮かべ、


「――『言わなくて分かるだろ?』みたいな感じじゃなくて、どうせなら、もう一度、あらためて、言葉にしてほしかったなぁ」


 呑気な声で、そう言ってから、

 天を見上げて、


「さて……めでたく、1001周目に挑戦しようとしている君に……僕から、祝いのサプライズプレゼントをあげようと思う。楽しんでくれるかなぁ。楽しんでくれるといいなぁ。くくく」


 などとつぶやいてから、

 混沌の闇に溶けていった。




 ★




 1000周目も普通に絶望エンドを迎え、

 普通に、それまで通り、銀の鍵を使ってタイムリープを果たしたセン。


 自室のベッドで目を覚ましたセンは、


「……ん?」


 違和感を覚えて、

 窓の外を眺めてみる。


 ハッキリと分かる大きな変化はない。

 普通に青い空。

 行き交う人々。


 普通。

 おかしなことはない。


 だが、


「……んー……? なんだ? なんか……ん?」


 これまで、同じ朝を、1000回繰り返してきた。

 センにソムリエの才能はないが、

 しかし、才能がなかろうと、

 ひたすらに1000回も繰り返せば、

 さすがに『微妙な差異』も見えてくる。


 同じワインを1000回飲み干した直後、

 1001回目に、『違うワイン』を出された時、

 たとえ、そのワインが、

 『素人には一切判断がつかないほど似通った味』だったとしても、

 さすがに、


「……なんだ? わかんねぇ……わかんねぇけど……空気感が……なんか」


 一流のソムリエのように『明確な言葉で、現状を表現する』のは難しい。


 だが、『違う』ということだけは分かった。

 だから、センは、


「……これは……なんか……わからんが……だいぶ、鬱陶しいことになる予感が……ビンビンする……」


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