20話 完全無欠のメンタル。


 20話 完全無欠のメンタル。


「うそだろ?! え、マジで?! いやいやいや、図虚空さぁん! きてぇ!!」


 何度か、召喚しようと試してみたが、なしのつぶて。


(いや、さすがに、図虚空なしはエグすぎん……?)


 冷や汗をダラダラ流しながら、慌てふためていると、

 そこで、黒木が、


「アポロ、きてください」


 携帯ドラゴンを召喚し、

 アポロをマシンガンに変形させると、

 そのまま有無を言わさず乱射する。


 ダダダダダッ!


 と、軽快な音がして、

 無数の火花がパっと開いて咲いた。


 一般車両ぐらいなら、見るも無残なハチの巣に出来る程度の火力はあるのだが、

 しかし、


「……ああ、ダメですね……アポロの火力だと、豆鉄砲でしかありません。積みました。さようなら、ワールド」


「あきらめないでっ! 諦めたらそこで試合終了って、昔のエロい人が言っていたから!」


「ホワイトヘアードデビルをエロ親父扱いしないでください」


 などと、どうでもいい会話の応酬をしていると、

 アポロマシンガンにイラついた様子のバスタードラゴンが、

 雄叫びをあげながら、自身の周囲に複数のジオメトリを刻み込む。


 そのジオメトリは、まるで、固定砲台。

 バスタードラゴンは、『無数に召喚した炎のナイフ』を、

 容赦なくバラまいてくる。


「あのドラゴン、どうやら、魔法も使えるようですね……」


 解析しつつ、黒木は炎ナイフの弾幕を綺麗に回避する。

 軽く追尾性能もあったが、アポロの自動迎撃システムが弾き落としてくれた。


 そんな、完全回避を果たした黒木と違い、

 図虚空を使えないことに対する動揺から復帰できていないセンは、

 『左折中に巻き込まれた原付』のように、



「どわぁあああああ!」



 もちろん、ほとんどは回避したのだが、

 死角からの追尾に対して、

 意識はともかく、肉体の方が反応しきれず、

 普通にカスってしまい、

 結果、右腕の肘から先を持っていかれてしまった。


 もっと深く集中していれば、

 ドラゴンの予備動作に対する零手目から細かく計算し、

 ギリギリ、どうにか、回避できていただろうが、

 今のセンは、あまりにも、気が散漫になりすぎていた。

 彼の不器用さが露呈する。


 ――と、同時に、彼の『人としての弱さ』も露呈した感じ。

 『心の支え』があると、どうしても、それに頼ってしまう。

 『支え』に頼っていた比重が多ければ多いほど、

 『支え』を取り上げられた時の動揺が増す。


 センエースのメンタルは、非常に優れているが、

 しかし、決して、完全無欠ではない。


 『隙(すき)』や『弱さ』や『脆さ』が普通に含まれている。


「痛ってぇなぁああ! どちくしょぉお!」


 脂汗を流しながら、

 バスタードラゴンの動きを目で追うセン。


 バスタードラゴンの『次の攻撃』の『予備動作』は、既に始まっていた。


 激痛の中で、

 集中力を加速させていくセン。


「……ナメんなよ、クソが……こちとら、今まで、ずっと、頭おかしいS級のGOOと渡り合ってきたんだ……てめぇごときの『しょっぱい攻撃』ぐらい、ちゃんと集中すれば、余裕で避けられんだよ……まあ、避けるまでが限界で、サイズ的に、切り返しは厳しそうだが……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る