4話 黒く、輝け、トラペゾヘドロン。


 4話 黒く、輝け、トラペゾヘドロン。


「よし、いいぞ。なんでもいいから、起これ、イベント。この閉塞状態を打破できる『何か』になってくれ」


 などと祈っているセンの視線の先で、

 ウムルの死体は、グニャグニャと蠢き、

 ギュギュッっと、小さくなっていく。


 数秒で『黒く輝く多面体』の結晶になった。




「……トラペゾ……ヘドロン……」




 その黒い多面体を見た時、

 なぜだかわからないが、

 センは、ソレが、間違いなく、

 『トラペゾヘドロンである』と認識した。


 デジャブと呼ぶにはあまりにも鮮明すぎる認知。


 だが、そんな『自身の疑問』に対する回答を、

 『今、この場で導きだすのは不可能である』、

 という事も理解できたため、




「……黒く……輝け……トラペゾヘドロン……」




 センは、

 その黒い多面体を握りしめながら、

 なぜか『頭の中に浮かんだフレーズ』を口にしてみた。


 すると、

 黒い多面体が、

 ブルブルと震えながら、

 より強い黒色で発光しはじめた。


 輝きは、いつしか粒子となって、

 パラパラと世界に舞い散って、

 一つのシルエットをつくりだす。


 次第に、

 シルエットは、影となり、

 影は、


 黒肌の美青年となった。






「ふぅ……ひさしぶりだね、センエース」






 黒肌の美青年は、ニィとイタズラな笑顔を浮かべてそう言った。


 想定外の挨拶に対し、

 センは、訝(いぶか)しげな表情で、


「ひさしぶり? あんたと会うのは初めてだと思うんだが? あと、なんで、俺の名前――」


 センの言葉を遮るように、

 その美青年は、食い気味に


「もちろんそうさ。僕と君は、今日、今、この瞬間こそが、初対面。はじめまして、よろしく、どうぞ」


 その『過剰なほど飄々とした態度』に、

 センは、普通に『不愉快極まりない』という顔になり、


「……イラつくな、お前……」


「まれによく言われるね」


「……」


 心底しんどそうな顔が止まらないセン。

 そんなセンの表情に満足したのか、

 美青年は、尊大な態度で、



「僕の名前はニャル。ん? かわいらしい名前だって? 知っているさ。だから名乗っているという側面もなくはない……ま、嘘だけどね」



 そのイカれた自己紹介を受けたセンは、

 眉間のシワをグっと寄せて、


「お前について、俺は何一つ知らないが、一つだけ確かに言えることがある」


「へぇ、なにかな?」



「俺、マジで、お前、きらぁい」



「くくくくくっ」


 ニャルは、心底楽しそうに笑ってから、


「安心するといい、センエース。僕も、君のことが嫌いだ。もしかしたら『もはや好きなのかもしれない』と勘違いしてしまうかもしれないほどに、僕は、君のことが大嫌いだ」


 などと言いながら、ニャルは、

 空中に、小さな太陽を創り出して、


「よっこらしょ、っと」


 などと言いながら、その太陽に腰かける。


 センは『その光景』に、なぜだか強い既視感を覚えた。


(……鋭角なデジャブ……なんなんだ、この感覚……)


 モヤモヤする気持ちを解消させたくて、

 頭の中を探ってみるが、

 答えを導く出すことはできなかった。


(……まあいい……こんなデジャブ、今はどうでもいい……それよりも……)


 無意味なモヤモヤを意識の中から外して、

 センは、



「ニャル……一つ聞きたいんだが……もしかして、お前は……アウターゴッドか?」


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