1話 延々に、粛々と、黙々と。


 1話 延々に、粛々と、黙々と。


 ――それから先は、総当たりだった。

 『地獄』を『殺しきるための方法』を探す『長い旅』のはじまり。


 『どうすれば、トゥルーエンドにたどり着けるのか』


 それだけを考えて、必死になって、

 『正解の道』を追い求めた。


 ありとあらゆる手をためし、

 すべての『選択肢』をつぶしていった。


 ……10周、20周、30周、


 ひたすらに繰り返した。

 同じ1週間を、

 延々に、粛々と、黙々と、


 回数を重ねるたびに、心は摩耗していく。

 『慣れ』など介在する余地はない。


 いや、もちろん、『慣れる部分』もなくはないが、

 しかし、そんなモノは、実際のところ、

 多少『手際がよくなるだけ』で、

 『心の消耗』が軽くなることはなかった。


 同じ相手に、同じ説明を繰り返す。

 フラグをたてるために、同じ行動をとる。


 夜には、アイテムを探し続ける。

 GOOを殺し続ける。


 同じことを、

 ただ、ただ、繰り返す。


 すさまじく地味で、

 だからこそ、恐ろしく辛い作業。



「……大丈夫ですか……陛下……」



 50周目を迎えた初日、

 カズナに、そう声をかけられたセンは、


「……お前は?」


 そう質問返しをしてみた。

 すると、


「……」


 数秒の沈黙を経てから、


「……正直……疲れ果てております……これは……厳しい……」


「だろうな。そうでなければ、サイコパスだ。……いや、サイコパスでも、さすがに、この状況は、しんどいだろう……この状況をしんどいと思わないヤツは人間じゃない」


 そんな会話から始まった50周目も、

 それまでと特に代わり映えすることもなく、

 最終日には、当たり前のように、

 無慈悲に、剣翼が舞って、

 普通の地獄エンドを迎える。



 すでに、精神的にはボロボロだが、

 しかし、それでも折れることなく、

 センは運命に抗い続けた。


 60周、70周、80周、


 繰り返した。

 ひたすらに。

 延々に。


 終わることのない地獄の底で、

 センは、あがきもがき苦しみ続けた。



「分岐になり得る選択肢は、ほぼすべて試した……」



 99周目に、センは、

 うなだれながら、


「なのに、なんでだ……どうして、何も変わらない……どうして、最後には必ず、剣翼が舞う……」


 『考え得る、ほぼすべてのルート』をためしてみた。

 だが、結果に変化はない。

 必ず、最後には剣翼が舞って、世界が終わってしまう。


「まさか、破滅エンド以外は存在しないのか……」


 だとしたら、あまりにも残酷な運命。

 滅びゆく世界の中心で、無限に、同じ時間を繰り返し続けるという地獄。


「……ふざけるな……」


 奥歯をかみしめる。

 世界をにらみつける。


 折れそうになるたびに、

 踏ん張って、抗って、立ち向かい続けた。


 その背中があったから、

 カズナも、折れることなく、今日までついてくることができた。


 けれど、



「……大丈夫……ですか…………陛下……」



 力のない声。

 顔色は蒼白。

 『肉体的な損傷がゼロ』だとは思えないほど、

 彼女の全てが、やつれて見えた。


「……お前は?」


 聞くまでもないが、

 聞かずにはいられなかった。


 カズナは、

 ポロポロと、涙を流しながら、かすれた声で、



「…………苦しい…………」



 その弱音を聞いたことで、

 センは、ハッキリと理解する。


(ああ……カズナは……もうダメだな……)


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