84話 なりふり構わないフラグ。
84話 なりふり構わないフラグ。
1時間も経ったころには、校内で、
『200名のテロリスト全員が、ほぼ同じタイミングで気絶した』
という、そのセンセーショナルなニュースを知らない者は一人もいない、
という状況が出来上がった。
教師連中は、この謎現象に狼狽(うろた)え、あわてふためいているが、
生徒たちは『避難訓練よりもよっぽど面白いイベント』として楽しんでいた。
そんな中、
スピーカーから、
センにだけ聞こえる声が響く。
『お見事。噂以上の、素晴らしい実力だ。正直言って、ナメていた。君があまりにも神速すぎて、現状だと、君が誰か特定するのは難しい。しかし、今回の一件で、君がただの愉快犯ではないと気づけた。出来れば、【気高い信念を持つ英雄】であってもらいたいところだが、そこまでは望み過ぎかな? とにもかくにも、君がただの愚者ではないと気づけたのは大きな一歩だった。謎の怪盗ノゾ=キマよ。君が真なる救世主たらんことを、私は強く祈っている』
そこで、スピーカーは切れた。
いまだ、事件の余韻でワーキャーやかましい教室の隅で独り、
センは天井を見つめながら、
(もし、これが、『次のステージへ進むための必須フラグ』だとしたら……俺、ループするたびに、200人に首トーンをしないといけないのか? ……ダッルぅ……)
心の中で、そんなことをつぶやきつつ、深いため息をついた。
★
――その日の夜も、センは、当たり前のように、アイテム探索に精を出していた。
『いつ、剣翼が舞うだろうか』とビクビクしつつも、
学園中を駆けずり回って、アイテムを探し続ける。
そろそろ来るか?
もう来るか?
と、ビクビクしていたのだが、
しかし、結局、
剣翼が舞うことなく、
次の朝を迎えた。
「……マジか……乗り越えたのか……?」
『まだ油断は出来ない』と、頭では理解しているのだが、
しかし、体が『ホっと脱力する』のを抑えることはできなかった。
その場に、力なく崩れ落ちるセンに、
アイテム探索パートナーの黒木は、
「だ、大丈夫ですか?」
と、心配そうな声をなげかけてくる。
「元凶はまだ不明……おそらく、どこかのタイミングで、また襲ってくるだろう……わかっている……わかっているんだが……はぁあ……っ……」
ツーっと、片目から、一滴の涙が流れた。
『泣いた』というより『ただ零れた』といった感じの一粒。
それが『どういう感情の涙』なのか、
自分でも、理解することができなかった。
嬉しいとか、悲しいとか、
そんな単純な涙でない事だけは理解できるのだが、
具体的な言葉にすることは、どうしても出来そうになかった。
とにもかくにも、
そんなみっともない水滴は、
袖で、ササっとぬぐい取り、
天を見上げて、
センは、深く息を吸った。
★
――その日は、クラスマッチが行われる日だった。
もともとの種目は、バレーの予定だったのだが、
しかし、当日になって、なぜか、
「……総合格闘技? ……おいおい……」
『バレーのクラスマッチ』が、
『総合格闘技の大会』に変更されていた。
(露骨というか、ムチャクチャというか……なりふり構ってねぇな……)
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