62話 つーか、これが限界!

 62話 つーか、これが限界!


「俺は、てめぇになんの怨みもねぇ。ただ、お前を殺した経験値で、自分の武器をパワーアップさせたいだけ。凄まじく自己中心的な理由で、俺はお前を殺そうとしている」


 センは、真摯に事実を語る。

 嘘はつかない。

 ここで嘘をつく必要性が皆無だから、

 というのが、当然、一番の理由だが、

 それ以外にも、

 『身勝手に命を奪うのだから、最低限、真摯ではありたい』

 という、妙な理由もある。


 この心情は、

 食事の際に、

 ――手を合わせて、『いただきます』と言う――

 みたいな感覚に近いかもしれない。


「ゆえに、お前は俺に文句をいう権利がある。俺を恨む理由がある。別に、その事実から目を背ける気はねぇ。俺は、自分の欲望のために、他者を喰らおうとしている。――だが、そこに関して、変に己を卑下したりもしない。なぜなら、生きるというのは、そういうことだから。俺は俺の業から目を背けたりしない。からっぽの正義感をうたったりもしない。俺は、俺の欲望のために! お前を殺す!! あの世で、存分恨め!!」


 覚悟を叫ぶと、

 センは加速した。


 精神的負荷の量を爆発させて、

 自身の質量を暴走させる。



「――業鬼一閃――」



 力強い一閃で、

 クルルーの中心をぶったぎるセン。


 命が終わる直前、

 クルルーは、


「……ただの養分として喰われて終わる……まあ、それも一興か……」


 ボソっとそうつぶやいた。


 クルルーの魂魄は、

 図虚空に回収される。


 これで、準備は整った。


「――既定の経験値を会得した。これより、アップグレードを開始する」


 図虚空が、闇色にまたたいて、

 ギュンギュンと、謎の波動音を放つ。


 アップグレードにかかった時間は、およそ十秒後、

 進化した図虚空は、


「……またゴツくなったな……俺好みで、悪くない」


 より狂気的な姿へと変貌していた。


「これほど形状はエグいのに、ナイフとしての火力そのものは、相変わらずゴミ……そのファニーな感じも、個人的には悪くない……いや、まあ、嘘だが。普通に火力も上がってほしかったが」


 などと、どうでもいい事をつぶやいてから、


「さて……これで、『銀のカギ』をサーチできるようになったんだよな……さっそく、銀のカギを見つけてくれ。どこにある?」


 そう呼びかけると、

 図虚空は、


「世界中をサーチできるわけじゃない。ある程度、近づいてくれないと、見つけることは不可能」


「……なるほど。まあ、普通に考えれば、そりゃそうかって話だ……」


 そうつぶやいてから、

 センは、時空ヶ丘学園へと瞬間移動する。


「どうだ? あるか?」


「付近にはない」


「付近って……どのぐらいだ?」


「半径30センチ以内には存在しない」


「……さんじゅ……センチ?」


「サーチできる範囲は、およそ30センチだ」




「30センチ以内にまで近づいたら、肉眼で見えとるだろうが!!」




「壁の向こうに隠されていた場合だと、肉眼では無理だろう」


「いや、まあ、そうなんだけど……いや、わかるんだけど……けど、索敵範囲、もう少し、どうにかならねぇか?」


「半径30センチまでで十分……っ!! つーかこれが限界!」


「やかましわ! なに、小粋なネタで返してきてんだ!」


「ツレないな。お前のノリに合わせてやったというのに」


「自分がやるのはいいが、相手にされるとハラたつ」


「身勝手なヒーローだな、まったく」

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