36話 きわめて一般的な童貞。

 36話 きわめて一般的な童貞。


「この命、この心、この体、すべてを、陛下にささげます。あなただけが私の王。あなただけが、私の希望。あなただけが私の全て」


 心からの言葉を受けて、

 センは、天を仰ぎ、

 苦虫をかみつぶしたような顔で、


「……しんどい、しんどい……」


 と、そうつぶやいた。


 しかし、そんなことはお構いなしに、

 カズナは、


「それで、陛下。まずは何からはじめますか? それがどのような無理難題であれ、陛下の命令とあらば、死んでも果たしてごらんにいれますので、なんなりとご命令を」


 バキバキの目で、センに覚悟を押し付けてくる。

 その様を受けて、

 センは、心底しんどそうな顔で、


(最初から思っていたけど……こいつ、雰囲気が怖いんだよなぁ……)


 『強大なGOO』が相手でも、臆することなく立ち向かえるセンだが、

 しかし、カズナの圧力の前では、普通に尻込みしてしまった。


 これから先の、彼女との共闘が思いやられ、

 センは、『はぁ』と、深いタメ息をついた。



 ★



 その日の夜、

 センは、時空ヶ丘学園で独り、

 ナビゲーション・グールが沸くのを待っていた。


 スマホで時計を確認して、


(正確な時間は覚えていないが……たぶん、そろそろ……)


 心の中でつぶやきつつ、

 センは、

 カズナに頼んで用意してもらった『仮面』を装着する。


「ふふ……『黒髪・中肉中背でモブ雰囲気』の俺にマスクまで使われたら、もはや、常人に識別は不可能」


 などと言いながら、軽くストレッチをはじめる。

 ちなみに、この仮面には変声機も組み込まれている。

 『コ〇ンの蝶ネクタイ』みたいに『声を自由に操れる優れモノ』ではなく、

 『声をほんのりガサガサにする』だけの簡易なもの。




 ――色々と考えた結果、

 センは、『ここからは流れを変えていこう』と判断した。


 簡単に言えば、

 『大まかな流れ』には逆らわないまま、

 『センエースにとって理想の形』を求めようとしている。


 『センエースにとって理想の形』とは何か。

 単純である。


 『誰にも気づかれることなく、ヒーローを完結させること』


「あいつらにバレたら、めんどうなことになる、というのが前回の流れで骨身にしみた……『ちょっと褒められる』くらいなら、俺も悪い気はしないが、あいつらは過剰が過ぎる」


 『がんばったな、おつかれ』や『セクシーサンキュー』程度の賞賛なら問題ないのだが、

 『過剰な絶賛』は胃もたれするので勘弁願いたい、

 ――というのが、センの基本的な精神スタイル。


「……もうこりごりだ、ガチで関わりたくない」


 神話生物関連で彼女たちとかかわってしまうと、

 『異常に歪んだ好意』を向けられてしまうということを痛感したセンは、


 というわけで、とりま、『ここでの関係性』は鬼スルーして、

 『面倒事が終わったあと』で、

 『なにかしら』の流れを経て、

 『適度』な『関係性』が築けたらなぁ、

 みたいなロマンチック乙女ゲージ全開な事を考えている。


 ようするには『理想の出会い』と『理想の恋愛』を妄想している、きわめて一般的な童貞である。

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