22話 そして、誰もいなくなった。

 22話 そして、誰もいなくなった。


 カズナは、自身のスマホを取り出して、

 知っている連絡先に、片っ端から電話をかけていく。


 だが、誰も出ない。

 メールやラインを乱射しても、

 反応は完全にゼロ。


「そんな……そんな、バカな、バカな、バカなっ」


 震える手で、祈るように、

 電話をかけ続けるカズナ。


 そんなカズナを尻目に、

 センは、心を整えるように、ゆっくりと歩を進めて、

 南側にある『デカい窓』の外を眺める。


(死んでいる……少なくとも、見える範囲にいる人間は全て……頭が吹っ飛んでいる)


 窓から見えた『通り』に横たわっている死体の数は10人分。

 全員、頭が炸裂して、血の海を形成していた。


 視線をこらしてみると、

 あちこちで煙も上がっている。


(運転中に殺されていた場合……制御不能になった車は、どこかに全力で突っ込んで、爆発を起こすよな……しばらくしたら、あちこちで火事も多発するだろう……)


 管理者を失った世界。

 二次災害は多発するだろう。


 しかし、大規模災害がどれだけ起ころうが問題はない。

 すでに、みんな死んだのだから。


(……頭がおかしくなりそうだ……)


 足元がフラつく。

 眩暈がする。

 耳鳴りもする。


 今は、精神的負荷を完全に切っているが、

 凄惨な状況のせいで、

 『5パーセントぐらいの負荷』を感じている。


 つまりは、なかなかの絶望。

 一般人では耐えられない領域。



(……あの剣翼の威力は相当高かった……『蓮手の魔力』が、もし、本当に、『あの剣翼を世界中に展開できる級』なら……紅院たちでは勝てるわけがねぇ……間違いなく、瞬殺されているだろう……)



 膝がガクっと抜けそうになった。

 並みの精神力だと、ここで発狂していただろう。

 しかし、彼は、センエースだから、


「……すぅうう……はぁああ……」


 深呼吸を一つはさむだけで、

 どうにか、踏みとどまることができた。


 センは前を向く。

 奥歯をかみしめて、


(……紅院たちは、おそらく、殺されているだろう……だったら、どうする? ……決まっている。蘇生方法を探す……そう、それだけの話だ……時空ヶ丘学園を探索しまくって、ドラゴ〇ボール的な神級のアイテムを見つけて、『蓮手が上等をかます前の世界』を取り戻す……単純な話だ……折れるな……)


 自分で自分に言い聞かせながら、

 センは、何度か深呼吸で、爆発しそうな自律神経を静かにさせる。


 と、そこで、背後から、声が響いた。


「うぅう……ぅぅ……ぅううううっっ!!!!」


 頭をかきむしりながら、机やイスを蹴飛ばしつつ、

 とにかく、無意味に暴れまくるカズナ。


「うそだ、うそだ、うそだ、うそだ、うそだ、うそだ、うそだ、うそだ、うそだ、うそだ!」


 壊れてしまったように、

 焦点の合っていない目で、よだれを垂れ流しながら、

 何度も、何度も、何度も、同じ言葉を口にして、


「こんなワケない! うそだ! 夢だ、夢だ、夢だ、はやく、さめろ! もういい! 飽きたぁああああ!」


 うずくまり、頭を抱えて、

 ワーワーと喚き散らすカズナ。


 狂ってしまう一歩手前。

 精神的に、もっともキツい時期。

 完全に狂ってしまえれば、何も考えなくてよくなるが、

 ギリギリ、正気を保っているこの状況が一番しんどい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る