85話 めでたし、めでたし。

 85話 めでたし、めでたし。


「この空間にかけられていた次元ロックは、アホみたいに強固で、おまけに、迎撃システムがハンパなかったから、穴をあけるだけでも、すげぇ労力がかかった! レーザーに貫かれ、火炎放射に焼かれ、ヤリにつかれ、ギロチンに切断され……ほんとに、しんどかった! 断言するが、俺じゃなかったら、穴すら開けられなかっただろう!」


 わざわざ言われなくとも、

 その『満身創痍っぷり』を見れば、

 一目で、『大変だったであろうこと』は理解できた。


 センのズタボロ加減は、

 『ツァールにずたずたにされていた時の紅院』を、

 ゆうに超えていた。


「次元に穴をあけるために、俺が自分の精神にどれだけ負荷をかけたかといえば、『今しがた、お前が感じていた呪いの絶望』のざっと300倍ぐらいだ!」


 ※ 実際に数値を出した場合、

 おそらく、もっと凄まじい倍率になるのだが、

 今のセンに、そこの部分を正式に算出するのは不可能なので、

 かなりテキトーな『300倍』という数値に落ち着いた。


「一瞬耐えるだけでも相当にしんどい精神的負荷と『10分』ぐらい向き合い、イカれた質量の迎撃システムをかいくぐることで、ようやく、次元ロックに風穴をあけることができた。俺は超がんばった。文句を言われる筋合いは、いっさいない! というわけで、女の兵器で攻撃してくるのは、やめてもらおうか! しんどい!」


 と、まくしたてた直後のことだった。


 『時間経過』と『センの下らない言い訳』が、

 紅院(幼女)の感情を整理させ、

 結果、急激な『極度の安心感』が、

 彼女の情緒に総攻撃を仕掛けた。


(助けてくれた……かけつけてくれた……応えてきれた……命がけで……そんなにボロボロになりながら……必死にっ…………ありがとう……ありがとう……ありがとう……っ)


 ゆえに、当然のように、

 紅院美麗は、その場に崩れ落ち、




「ぅあああああああああああんっっ!」




 と、これまでで一番の豪快な号泣をかます。

 感情の大爆発。

 もはや、意志で止めることは不可能。


 ――そんな紅院の様子を見て、普通に全力でうろたえるセン。

 おろおろしながら、


「いや、うん、悪かったって。遅くなって、もうしわけありませんでした!」


 あっさりと前言撤回。

 光速で頭を下げていく無様な閃光。


「ちょっ、もう……いや、もう、そんな泣く? いや、俺も、マジで頑張ったんですけど? ――いや、もう、わかった、わかった、俺が悪い! 助けにくるのが遅くなった俺が悪い! だから、もう、勘弁してくれ! 目の前で幼女に号泣されるの、きつい、きつい! このシーンを誰かに見られたら、色々と詰む! だから、勘弁してくれ!」


 『女性の相手』にも『子供の相手』にもなれていないセンに、

 この状況は、あまりにもクリティカルが過ぎた。


 ※ 『200億年の人生経験』が『完全』に残っていれば、

 この状況を、どうにか、いなすことも、

 不可能ではなかっただろうが、


 『10代』分の『人間視点』しか持ち合わせていない現在では、

 この状況を華麗に処理することは不可能。



 子供にガチで号泣されると、普通にパニック!

 人間だもの!



 ――結局、センは、

 紅院が落ち着くまで、オロオロし続けるハメになったとさ。

 めでたし、めでたし。


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