83話 終焉の呪縛。

 83話 終焉の呪縛。


 ――己の死を受けて、

 宙を舞っているツァールの『首から上』がボソっと、


「死――神格の私が――脆弱な人間の一撃で――死っ――そんなバカな――」


 とびっきりの『不可解』を口にする。


 視界の片隅では、

 首から上を失った自分の体躯が、糸の切れた人形みたいに、ズサリと崩れ落ちている。


 その結果、より鮮明に『己の死』を理解したツァールは、


「――ぁ、ありえない、ありえない、ありえないぃいいいいい――」


 残っている最後の魔力とオーラを、

 『無様な慟哭』に全振りした。


 『慟哭に全振りしたかった』というワケではない。

 『つい反射的に、そうしてしまった』という、

 本当に、ただただ無様な話。


 ――その『無様』がスイッチになった。


 まるで、『ツァールを送り込んだ者』の視点では、

 『こうなることが最初から分かっていた』みたいに、

 よどみなく、流動的に、

 ツァールの『首から上』がグニャリとゆがみ、

 ツァールの『中』に組み込まれていた自動迎撃プログラムが発動することとなった。







『――『終焉の呪縛』発動――』







 『ツァールの命』は、

 センの『魂魄一閃』によって、

 驚くほどの速度で、こと切れた。


 ――が、しかし、その結果、

 『ツァールの命に刻まれていた呪い』が、

 迷いなく、まっすぐに、

 紅院美麗へと襲い掛かる。



「ああああああっ!」



 黒いオーラに包み込まれた紅院美麗は、


「うぷっ……うぇええ……あああっ……あああああ!」


 全身を襲う悪心(おしん)・激痛に、のたうちまわる。


 そんな彼女に、

 『セン』は、一目散に、かけよると、


「ちっ……『死んだら発動するタイプの呪い』か。ウゼェもん仕込みやがって……つぅか、なんで、『トドメを刺した俺』じゃなく、紅院に向かうかね」


 文句を吐き捨てながらも、センは、


「図虚空……この呪いを食えば、お前、もう少し強くなれたりする?」


 のたうちまわっている彼女に触れながら、

 自身のナイフに問いかける。


 図虚空は、


「――可能。ただし、今、紅院美麗が受けている苦悩の全てを、『センエース』が背負うことになる」


 たんたんとそう答える。

 センは、一秒だけ考えてから、

 ボソっと、


「……この感じだと、ギリ耐えられる気がする。それに、今後の事を考えると、今のうちに、できるだけ、強くなっておいた方がいい気がする……」


 ごちゃごちゃと、どうでもいい前を置いてから、

 センは、


「というわけで……残さず食い尽くせ」


 迷いなく、紅院を蝕(むしば)む呪いに寄り添った。

 その、ありえないレベルの献身を、

 しかし、センエースは、エゴだと言い張る。

 すべてが歪んでいる、なにもかも。


「了解、ヒーロー」


 ――センに、命じられると、

 図虚空の覆っているオーラが、

 グニュグニュと形状をかえて、

 『龍』のような姿になった。


 すべてを食いつくさんと意気込んでいるようなオーラ。

 そのまま、紅院の全身にグワっとかぶりつく。


 グニュグニュと、

 何度か咀嚼すると、


 紅院の体から苦痛が消えていった。


 代わりに、


「うぼぉおっ……」


 センの全身を重たい絶望が包み込む。

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