62話 性格、わるすぎ。

 62話 性格、わるすぎ。


 『恐怖心』を『克服する』ことは不可能。

 命ある限り、恐怖とは、永遠に戦い続けなければいけない。


 神であろうと、人であろうと、

 そこに変わりはない。


「感覚がマヒしていたわけでも、死にたがりのピエロだったワケでもない。城西……今のあなたと同じ……いえ、それ以上の絶望の底で……それでも……」


 そこで、

 茶柱は、言葉を切った。


 そこから先は、言葉で語る意味がないと理解できたから。

 だから、


「家柄がどうとか、スペックがどうとか……『そういうこと』も、もちろん器になりうる。けど『その手のブランド』は、極限状態において、頼りにならないことが多い。絶対ではないのだろうけれど……命の瀬戸際で『支え』になるほど、それらは強固じゃないと、私は思う」


「……」


「ヒーローを名乗るなら、ハンパは許されない。その場にいる全員が未来を諦めて、もうどうしようもないって状態になった時に、『それでも』と叫び続ける勇気がないのであれば、ヒーローを名乗る資格はない……と、私は考える。あくまでも、私の意見。絶対の答えではない」


「……」


「ちなみに、どう? 今、あなたは、絶望の底にいるわけだけれど、立ち上がれそう? 勇気を叫べそう? まだ、言える? 自分はヒーローだって、声を大にして言える?」


「……」


 折れた目で、

 ただ、じっと茶柱を見る城西。


 その目を受けて、

 茶柱は、一度、コクっとうなずくと、


「立ち上がれなくても無理はない。私は、あなたを責める気はない。なぜなら、私も立ち上がれなかったから。本当の絶望を前にした時、人の体というのは、驚くほど動かなくなる。『助けてほしい』とうめく事しかできなくなる」


 そう言いながら、

 メギドを召喚し、

 ロケットランチャーに変形させると、


「城西……あなたは正常。今日の無様を、恥じる必要はない。悔いる必要もない。あなたは正常だった。何一つおかしいところも、間違っているところもなかった」


 エルダーグールに標準を合わせ、


「おかしいのは……あいつだけ。あのバカ男だけが、とびっきり異常なだけ」


 そう言いながら、

 茶柱は引き金を引いた。


 放たれたロケット弾が、当然のように、

 エルダーグールの体に命中する。


 豪快な音をたてて、

 爆風が舞った。


 モクモクとした煙が晴れた時、

 そこには、バラバラになったエルダーグールの死体が散らばっていた。


「ぁ……ぁああ……」


 理解しがたい光景を目の当たりにして、

 城西は、何度も、口をパクパクと開けたり閉じたり……



「……ぁっ……」



 心の許容量を超えてしまったらしく、

 城西は、失神してしまった。


 その様子を横目に、

 茶柱は、パチンと指を鳴らした。

 すると、二人を閉じ込めていた異空間が、

 パリンと音を立てて壊れる。


 いつもの世界に戻ってきた茶柱に、


 すぐ近くに立っていたセンが、


「……性格わっるぅ……」


 ドン引きした顔で、そうつぶやきながら、

 倒れている城西に駆け寄り、

 バイタルを確かめる。


 脈拍や呼吸等に、さほど大きな問題がない事を確かめると、

 近くの壁にもたれかけさせてから、

 あらためて、茶柱に視線を送り、


「やりすぎなんだよ……普通にやりすぎだ……『振る』にしても、やり方を考えろ。こんな、エゲつないトラウマを植え付けていくとか……ほんと……引くわぁ」


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