10話 センエースと相性のいい人間。

 10話 センエースと相性のいい人間。


「ツミカさんの目線は、基本的に、他の人と違うからにゃぁ。見えている色も形も、全部違う気がするにゃ。比べようがないから、実際のところ、どうかはわからないけどにゃぁ」


「……」


「もしかしたら、ツミカさんとセンセーは、相性がいいのかもしれないにゃぁ」


「……俺と相性のいい人間なんかいねぇよ」


「あ、それはツミカさんも思っていたことだにゃ。どうやら、ツミカさんとセンセーは、考え方も似ているっぽいにゃぁ」



「おっと、ウソウソ。失敬、失敬。さっきのセリフは、ただの大ウソ。俺、ほんとは、誰とでもウマがあうんだよ。いやぁ、つい昨日も、後ろの席の蓮手くんと、大盛り上がりでさぁ。男子高校生らしく、猥談なんかもしちゃったりして。いやぁ、俺って、ほーんと、コミュ力高いわぁ。やべーわぁ。つれーわぁ。――というわけで、俺と茶柱は『だいぶ方向性の違う人間』ということが証明されてしまったなぁ。残念だなぁ。憧れの茶柱さんと似ていなくて残念だなぁ。似ていたかったなぁ。惜しいなぁ。紙一重だったなぁ」


 などという、

 全力拒否を受けたツミカは、

 ニっと黒く微笑んで、


「そうだにゃぁ。センセーは、ツミカさんとは比べ物にならないくらいのサイコさんだもんにゃぁ」


 などと、お上品に切り返してきた。

 センは、ピリっと表情をこわばらせて、


「……ああいえば、こういう……うぜぇ女……」


「にゃははぁ、おたがいさまだにゃぁ」


 などと、

 言葉を交わし合っていた直後のこと、


 ブブ……


 と、何かが歪むような音が響いて、

 センたちの視線の先にある空間が軋んだ。


 その軋みは、

 徐々に具現化し、

 空間に切れ目として正式に顕現すると、

 その奥から、


「キシャァ……」


 長い槍を持った『両生類系のバケモノ』が登場した。

 肌は灰色で、顔からはピンクの触手が伸びている。

 粘液まみれのドロドロで、生まれた直後のように、

 プルプルと震えている。


 そんなバケモノを見た瞬間、

 ツミカは、両手で口元を抑えて、


「きゃあああ! ムーンビーストにゃぁ! 怖いにゃぁあ! キモいにゃぁあ! あまりの恐怖で頭がおかしくなりそうにゃぁ! センセー、助けてぇ!」


 などと、普通の美少女のように悲鳴をあげる。

 そんな茶柱に、

 センは、ソっと微笑みかけて、


「心配するな、茶柱」


 優しく、優雅に、

 頼もしく、力強く、

 英雄然とした態度で、


「お前の頭は、それ以上おかしくならない。いや、『ならない』んじゃないな……『なれない』んだ。だって、カンストしてんだもん。カンストしたステータスを伸ばすことはできない。それが、この世界の道理。摂理といってもいい。あるいは真理と断言してもいいかもしれない」


 そんなセンのセリフに対し、

 茶柱は、ブスっと口をとがらせて、


「愛しい恋人が怖がっているんだから、そこは『心配するな、俺が守るから』って言わないとダメだにゃ。やりなおし! はい、テイクツー」


「シンパイスルナー、オレガマモルカラー」


「やる気を感じない! テイクスリーを要求するにゃ!」


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