59話 自己犠牲ではない。

 59話 自己犠牲ではない。


「さて、それでは戦いの続きといこうか。おそらく、強く賢く美しい貴様らのことだ。まだまだ、切り札はあるのだろう? さあ、次は、どんな素晴らしい攻撃を見せてくれる? ああ、楽しみだ。私は、ここから何度死にかけるのかな? くくっ、ははは!」


「クソっ……たれが……」


 トコは、必死に涙を我慢していた。

 これまでの人生で、泣きたくなるような事は山ほどあった。

 だが、両親が強盗に殺されて以降、彼女は泣くのをやめた。

 両親の遺産に群がってきたクズ共との戦いは、死にたくなるほど辛かったが、トコは決して泣かなかった。


 だから、今だって、我慢はできる。



 ――死んでも泣いてやるものか!



「おや? どうした? はやく攻撃しろよ。……ん? まさかっ! まさかとは思うのだが……まさか、もう切り札は全て使いきってしまったのか?」


 苦々しい顔で睨みつけてくるトコに、ロイガーは、


「はははははは!! おやおや、どうした? 何か怖い目にでもあったのか?」


 心底楽しそうに笑ってから、

 ロイガーはゆっくりとトコに近づいてきて、


「いやぁ、こんなに笑ったのは久しぶりだ。貴様らのように、ちょうどいいオモチャはなかなかいないからなぁ」


「……オモチャ……か……」


「ん? 自分達の事を、それ以外の何だと思っていた? まさか、本気で私を殺せると思っていたワケでもあるまい? 私はS級のGOOだぞ? 『命の別枠』であるアウターゴッドをのぞけば、最高位の神格だ。人間ごときが、何をしようと勝てるわけがない」


 そこで、トコは、さらに奥歯をかみしめて、グっと顔をあげ、ロイガーを睨みつけた。


 最後の意地。

 矜持を込めて、視線に力を入れる。


「ほう……この状況で、まだ、そんな目ができるのか。悪くない。本気で褒めてやるよ。そこまで追い詰められて、まだその目が出来る動物は、そうそういない」


 ロイガーは、

 いたぶるように、ニっと笑い、


「本当に褒美を与えよう。もう少し、なぶってから殺そうと思っていたが、苦しまないよう、一太刀で殺してやる。ありがたく思え」


 右手を切れ味鋭い刃に変形させると、

 それをゆっくりと振り上げた。


「残りの連中も、一刀のもとに切り伏せると約束してやる。せめてもの慈悲というヤツだ」


「最後に聞く。助けて……くれへんか」


「おっと、みっともなく命乞いするというのなら、褒美はなしになるが、いいのか?」


「勘違いすな。あたしは殺してくれてええ。そのかわり、この星は見逃したってくれ。頼む」


「……おいおい、ずいぶんと、また、ヘドが出るセリフを吐くじゃねぇか。なんだ? まさか、自己犠牲の精神を見せれば、私の殺意が揺らぐとでも?」


「自己犠牲? 訳のわからん事をぬかすな」


「ふむ。じゃあ、今、貴様がしようとしている事はなんだ? 興味深いから、ぜひ、言語化してもらいたいね」


「ここにおる人間の中で最も価値があるんはあたしや。単純に『瞬間火力の大きさ』だけやったら、あそこにおる赤髪の脳筋の方が上やけど、総合的に見て『この世で最も価値がある美少女』は、ぶっちぎりで、このあたし。薬宮トコこそが人類の至宝」


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