43話 ……携帯ドラゴン……

 43話 ……携帯ドラゴン……


 トコが、センの背中に、


「とりあえず、その体勢やと、こっちとしても話し辛いから、こっち向けや」


 そう声をかけると、

 センは、遠慮交じりに、


「……振り向くぞ、いいな」


「ええいうてるやろ」


 振り返ると、

 トコが、拳銃の銃口を、センに向けていた。


「……銃刀法違反だなぁ」


 そんなセンの呑気な発言に対し、

 トコは、ニィと黒く微笑み、


「心配無用。裏のルールやと、あたしらには、こいつを扱う権利がある。権利というか、義務やな」


「……裏のルールねぇ……」


「300人委員会の噂くらい、聞いたことあるやろ?」


「まあ、有名な都市伝説だからな。名前くらいは聞いたことあるよ。確か、世界を裏側から牛耳っている世界政府だっけ?」


「あたしらは、300人委員会が保有する組織の一つ、『神話生物対策委員会』のメンバー。この特殊兵器『携帯ドラゴン』を使って『神話生物と戦い、世界を守ること』を『義務付けられとる』という、そんな、とても、とても、可哀そうな美少女戦士集団。まあ、セーラー〇ーンみたいなもんやと思うてくれたらええわ」


 と、そこで、

 センは、いぶかしげな顔で、


「……携帯ドラゴン……」


 つい、トコの発言を反芻してしまう。

 その態度に疑問をもったトコが、


「ん? なんや?」


 そう声をかけると、センは、首をかしげて、


「いや、なんか、聞いたことがあるような、ないような……」


 頭の中で、何かが引っかかる。

 思い出そうとしてみるのだが、

 どうしても、フィルターに引っかかる。


「……まあいいや……」


 『ゆるい引っ掛かり』以上の疑念に届かなかったため、

 今日のところは、いったん、普通にあきらめるセン。


 とりあえず、現状を処理しようと、

 トコが構えている銃を見つめて、


「その拳銃の名前が携帯ドラゴン?」


 その質問に対し、トコは、


「携帯ドラゴンを武器化させた状態がコレ」


 と言いながら、

 トコは、


「ヒドラ、一瞬だけ、戻れ」


 命じると、

 トコの手の中の銃が、

 形を変えて、小さなドラゴンになる。


「きゅいっ」


 と、一度、かわいらしく鳴いてから、

 また、拳銃に戻る。


 その一部始終を凝視していたセンは、


「……すげぇな……俺の人生、昨日まで、平々凡々だったのに……いきなり、めちゃくちゃファンタジー一色になってきやがった……」


 ため息交じりに、

 呆れつつも、

 センは、堂々と、


「俺の言動に、嘘があると思ったら引き金を引いていい。よけずに受けてやるよ。だから、いったん、俺の話に耳を傾けろ。薬宮トコ」


「……」


 言葉を使わず、態度だけで傾聴の姿勢を見せるトコ。

 それを見て、センは、丁寧に言葉を並べていく。


「俺は、別に、高潔な人間ってワケじゃないが、しかし、下劣な人間ではないつもりだ。人としてダメな部分は数多い。それは事実だ。しかし、俺は、絶対に、ノゾキなんかしない。俺の実質的な人間性を証明する手段なんかないから、どこまで行っても、単なる言い訳にしか聞こえないだろうが、しかし、俺は何度でも言う。俺は転移のワナをくらって、ここに飛ばされただけだ。信じろとは言わないが、無駄に疑うな。意味がない」

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