1話 センエースはクラスメイトの夢を見るか。

 1話 センエースはクラスメイトの夢を見るか。


 夢から目覚めたセンは、

 起きてから数分たった今でも、

 まだ、ボンヤリと呆(ほう)けていた。


(夢の中で俺は、たぶん……変身したり、飛んだり、手からビームを出していたような……いや、してなかったかな……そんな『ドラ〇ンボール』的な感じじゃなくて、『はじ〇の一歩』みたいに、物理法則を遵守しながら殴り合っていただけだっけ? なんか、どっちもありえる気がする……んー、ダメだ……思い出せねぇ……)


 すべてが、うっすらと、ボンヤリとしている。

 ただ、今でも『変に覚えている個所』が無くはなくて、


(……なんか……クラスメイトの女子が出てきた気がするんだけど……誰だったっけ……たぶん、『あの4人の中の誰か』だと思うんだけど……)


 心の中でつぶやきつつ、

 センは、

 自分のクラスメイトの顔を思い出す。


 『彼女たちの事』は、すんなりと思い出すことができた。

 『現実のこと』なので、これも、当然の話。


 『男子高校生・閃壱番』の『日常』に『ゆがんだ点』は一つもない。


(……『茶柱(ちゃばしら)』と、変な言い合いをしたみたいな……そんな夢だったような……気がしなくもない……)


 クラスメイトの女子生徒『茶柱(ちゃばしら)罪華(つみか)』を思い出して、

 センは軽く赤面する。


(なんで、あいつの夢なんか見るのかなぁ……もしかして、俺、深層心理では、あいつのこと気になってんの? ……うわぁ、気持ち悪ぃ……)


 顔が熱くなった。

 耳まで赤くなって、身悶(みもだ)えする。


(いや、まあ、あいつは、確かに、『見てくれ』だけは『出来がいい』と思うけど……でも、あんな、性格に莫大(ばくだい)な問題を抱えているシリアルサイコのことなんて……うわぁ、きしょい、きしょい)


 『夢にクラスメイトの女子が出てきてあたふたする』

 という思春期特有の恥ずかしさに興じるセン。


 その光景は、普通に気色悪いものの、

 しかし、特に『不可思議』と呼べるほどの異常ではなく、

 結局のところは、極めて平常な男子高校生の日常に過ぎない。


「……朝から、しんどっ……」


 ため息をつきながら、

 センは、ようやく、ベッドから降りる。


 『いつも』のように、

 顔を洗い、

 歯を磨き、

 メシを食って、

 学校にいく準備をして、

 家を出る。


 何も変わらない、『いつも』の風景。



 『一般人・閃壱番』の『日常』に『おかしな点』は一つもない。




 ★




 『ここではないどこか』から、

 『センエースが学校にいく姿』を見送ったオメガは、

 ボソっと、


「……ここからが本当の勝負だ」


 ドッシリと構えて、


「お前と殴り合いをしても勝てないのは最初からわかっていた。お前は強い。お前は『俺では届かなかった世界』にいる」


 純粋で無垢な『事実』を口にする。


「……だが、それだけではダメだ。『それだけ』だと、きっと、『結末』は、なにも変わらない。同じ絶望が積み重なるだけ。『そこ』ではなく『もっと遠い場所』に『本当の答え』がある……そんな気がしなくも、なくもない」


 オメガは、そんな、フワフワしたことを口にしつつも、

 しかし、どこまでもまっすぐに、

 センエースの背中を見つめながら、





「さあ、センエースよ。お前の『可能性の底』を見せてくれ」





 静かに、そうつぶやいた。

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