48話 どっちの魄(はく)が上か。

 48話 どっちの魄(はく)が上か。


「これが、お前の『可能性』をモチーフにした究極のトランスフォーム。モード-センエース。俺の切り札。――今の俺が、間違いなく、俺史上最強」


「お前は、俺をバカにしたいのか、それとも、持ちあげたいのか。どっちだ」



「その質問は重要か?」


「いや、スルーでいい」


「ならば、俺の質問に答えろ。――これならば、究極超神化7を使う必要性を感じるか?」


「……」


 センは、ゆったりと、

 武を構えてから、


「軽くやってみてから、判断させてもらう」


「……ウザい野郎だ」


 そう言ってから、

 オメガは、両足に力を込めた。


 伸びやかに、

 空間を掌握していくオメガ。


 派手な魔法や、

 トリッキーなスキルなど使わない。


 両者、

 『ゴリゴリの殺意』だけをむき出しにして、

 ド正面から、ボコスカと、愚直に殴り合う。


 野球で言えば、

 『延々、ど真ん中のストレート勝負』みたいなもの。


 無粋な策略をシカトして、

 『どっちの魄(はく)が上か』、

 それだけを突き詰めるような、

 頭の悪い対話に興じる。


 その中で、

 センは、



(……重てぇなぁ……)



 心の中で、とびっきりの本音をこぼす。

 飾り気のない、まっすぐな本音。



(もちろん、強いんだが……しかし、こいつのヤバさはそこじゃねぇ。……こいつの『重さ』は異常だ……)



 強いとか、速いとか、

 そういう諸々を超越して、

 オメガは、とにかく『重い』のだ。


 それは『重厚感』という意味でもあるし、

 ジットリとした『湿度的』な意味の重さでもある。


 あえて言えば、陰気。

 とにかく、鬱々としている。



 ――ふいに、轟音がシンと溶ける。

 ――互いに、距離を取った幕間。



 両者とも、浅く、呼吸を整えながら、

 わずかなインターバルをなぞりあう。


 そんな中で、

 センは、一ミリも警戒心を切ることなく、

 俯瞰で全体を見渡しつつ、


「オメガなんとか……いまだ、大半のことが意味不明だが、しかし、お前に対して、一つだけ、確かに言えることがある」


 まるで『名探偵のクライマックス』のように、

 ビシっと、オメガの顔を指さしながら、そう宣言する。


「ほう、なんだ?」


 興味深げな顔でそう尋ねるオメガに、

 センは、

 まっすぐな顔で、





「お前は、陽キャじゃねぇ」





 ズビシィっと、言い切られたことで、

 オメガは、当然のように、


「くく」


 と、薄く笑ってから、


「正解だ。さすが、命の王。慧眼だな」


 などと『クソほど中身のない言葉』を並べてそろえてから、

 オメガは、空間を超越する。


 世界を翔(か)け抜けて、

 センの『ド正面』を奪い取る。


 オメガは、握りしめた拳を振りぬきながら、


「――ただし、言っておくが、俺は、お前ほど『陰キャ』じゃなかった」


 その拳と言葉を、

 センは、軽やかに受け流しつつ、


「謙遜するな。あきらかに、お前の方が上だ。まさか、陰キャ力で、俺に勝てるヤツがいるとは思っていなかった。大したもんだ。誇っていいぞ」


 そう言いながら、拳を突き出すと、

 オメガは、紙一重で回避しつつ、


「いやいや、センエース。お前の方が凄い」


「いやいや、オメガなんとか。お前がナンバーワンだ」


 互いに互いを賞賛しあう、

 なんともほほえましい光景。


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