46話 いくぞ、センエース。殺してやる。

 46話 いくぞ、センエース。殺してやる。


「ホロウユニバース‐システム発動。ナイトメア・ユニット、オープン。我が身を守れ、マキシマイズ・ドリームオーラ」


 あらゆる攻撃の貫通値を数倍に跳ねあげるシステムを発動させ、

 飛行制御性能を爆発的に上昇させるユニットを広げ、

 ほとんど無敵になれる防御壁を展開させる。


 際限なく膨れあがる魂魄。

 世界を飲み込むような怒涛の威圧感。


「――センエース。覚悟の質量だけで言えば、お前が最強だ。しかし、勝敗は別だぞ。俺の全部を賭せば、お前を殺すことも不可能じゃない」


「俺に用件があるんだろ? だったら、殺すのはマズいんじゃないか?」


「何度も言わせるな。俺に殺されるようなカスに用はねぇ」


 そう言うと、

 オメガは全身に力を込めた。




「いくぞ、センエース。殺してやる」




 淡々とした会話をブッタ切るように、

 特に目立った開始の合図もなく、オメガは飛び出した。


 次元を裂くような豪速。


 残像だけが、認知の領域内に深い傷跡をつけていく。

 人の目では追えない知覚の地平面。


 神の目をもってすら、

 かすみがかっているカゲロウ。


(……疾(はや)いっ……重いっ……)


 積み重なった拳が、センの腹部に触れる。


 弾けて、混ざる。


 高次の圧力が、ズンと腹の底に響く。

 センはたじろぐ。


(尋常ではない強さ……『方向性』こそ違うが、この『深み』は、ソンキーに匹敵する……)


 次手の予備動作に入ったオメガ。

 呼応するように、

 センは、回避の流れに乗っていく。


 ゆるやかに、鮮やかに、

 最善手を並べていく。


 ――空間を駆ける二つの神。

 八方で轟音だけが暴走している。


 無限の応酬。

 神速の拳たちが舞い散る。


 炸裂し、弾けて、破砕する。

 バカになったギアで、ケイデンスを底上げする。


 断絶(だんぜつ)の重複(ちょうふく)。

 色彩を超越した幻想。


 ――美しく儚い『仄(ほの)かな一瞬』が世界を満たしていく。

 命が輝く。


「――異次元砲――」


 ほんのわずかな隙間を縫って、

 センは、『置き』の極限魔法を放った。


 オメガは、それを好機とみて、




「――オメガバスティオン――」




 流れるように、

 両手の底で、

 センの異次元砲を転がすと、

 キンッ、

 と、弾けたような音が響いて、


 センの異次元砲が霧散する。


「っ?!」


 明確に動揺するセンエース。

 つい、目を丸くして、体が動揺に硬直する。


 ――その甘さを、オメガは見逃さない。


 センの懐に飛び込み、

 グンッッ!!

 と、思い切り踏み込んで、

 オメガは、




「――閃拳――」




 恥ずかしげもなく、

 センの技を盗用していく。


「が……はっ!」


 腹にブチ込まれた閃拳。

 それは、決して、単なる猿マネではなかった。


(狂ったように重い……っ)


 眩暈(めまい)がした。

 体が、くの字になる。

 脳が揺れた。

 全身が乱される。


 ――ビリビリと、心がしびれている。


 そんなセンに、

 オメガは言う。


「こいつは、いい技だな。名前はダサいが」


「……ダサくなかったら意味がねぇ」


 そう言いながら、

 センは、グっと顎をあげて、


「そんなことより……お前、さっき、俺の異次元砲をどうした?」


「当たったらウザそうだったから消した」


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