40話 頭の悪い根性と気合だけの人生でした。

 40話 頭の悪い根性と気合だけの人生でした。


「ナメんなよ、ボケが」


 そうつぶやくと、

 一瞬のうちに、魔力とオーラを練り上げて、



「――亜異次元砲――」



 扉に向けて、

 極大魔法を放つ。


 膨大な魔力が圧縮されて、

 極端に精度の高い光が一点に集中する。


 コスモゾーンの法則さえなければ、

 世界の全てを破壊することだって可能な、

 まさに、異次元の一撃。


 音を裂いて、

 魂が響く。


 けれど、


「……っ?!」


 究極超神センエースの亜異次元砲を受けていながら、

 しかし、その扉はビクともしなかった。


「……魔法を無効化する特殊バリア……それとも、単純な火力不足? くそったれ……考えろ……どうする……この状況下における最善手は……」


 センは、頭を沸騰させる。

 豪速で回転する頭脳。



 ――と、そこで、



「……ん?」


 センは気づく。


 扉の向こうから、

 一人の『男』が出てきたこと。


 その男は、どこにでもいそうな中肉中背の黒髪短髪。

 ほんの少しだけ浅黒い肌で、年の頃は十代中盤に見える。


 ――その男は、

 センの目をジっと見つめて、


「よう」


 と、ノンキな挨拶をかましてきた。


 その気さくなノリに合わせられるほど、

 今のセンには余裕がない。

 ゆえに、


「あの三人に指一本でも触れたら、問答無用で殺す」


 ゴリゴリに威嚇しつつ、そう言った。


 そんな、遊びのないセンに対し、

 『扉から出てきた男』は、


「あの三人を奪い取った『腕』は、俺の魔法だ。感覚も普通に共有していた。つまり、俺は『すでに、あの三人に触れてしまった』ということになるが?」


「今の俺に、くだらないおしゃべりをする余裕があるように見えるか?」


 腹ペコの猛獣のような、ギラギラの目で、

 『男』をにらみつけるセン。


 その視線を受けて、

 『男』は、


「……まあ、そう焦るなよ。心配しなくとも、お前が間違えない限り、あの三人は傷つかない」


「……その言い方だと、俺が間違えた場合、あいつらが傷つく可能性があるって聞こえるが?」


「そう言ったんだ」


「じゃあ、焦るし、心配するに決まってんだろ。バカか、てめぇ」


「おやおや……お前ともあろう男が、自分の力を信じられないと?」


「お前ともあろう男って、俺の何を知ってんだよ」


 そう前を置いてから、


「……つぅか、俺なんか、信じられるわけねぇだろ。俺は、シューリやトウシと違って、『ガチで優秀な天才』ってワケじゃねぇ。それどころか、今までずっと『頭の悪い根性と気合だけ』で、どうにか、騙し騙し、その場をしのいできただけの無能。話にならねぇ」


 などと、言葉を並べながら、

 センは、『今の自分』に可能な『全て』を賭して、

 いつでも、『男』を瞬殺できるように準備していく。


 そんなセンの『全て』を見透かしているような顔で、

 『男』は、


「くく……」


 と、薄く笑った。


 癇に障る笑みを受けて、

 センは心底イラっとした顔で、


「大事な女を三人も奪われていて、ノンキを通せるほど、俺は男をやめてねぇ。今の俺は、マジでブチ切れている……それを踏まえて返答しろ」


 オーラを解放し、

 バキバキの圧力をかけながら、


「――俺の女を、とっとと返せ。殺すぞ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る