38話 クトゥルフの遺跡。

 38話 クトゥルフの遺跡。


 ――その『誰も入れない遺跡』は、

 外観だけで言うと、

 別段、他の遺跡と違いがあるというわけではなかった。


 『罪帝学園』の地下にある遺跡。

 対して厳重でもない『ちょっとした監視』の目をかいくぐり、

 『学園の深部に潜入しなければいけない』

 というのが『ほんのわずかに厄介なだけ』で、

 ほかの違いは特にないように見えた。


「……これか……確かに、扉は閉じているが……それ以外の外観は、他の遺跡と、何もかわらんな……」


 だいぶ高位の『カゲに潜む魔法』を使い、

 何の問題もなく罪帝学園に潜入したセンたち一行。


 地下へと直行し、

 遺跡の前までやってきたところで、


「特に変わった気配も感じない……」


 そうつぶやいたセンに、

 背後のアダムが、


「天下の情報班に、この遺跡に関する記録を入念に調べさせましたが、中に入る手段は一切見つかりませんでした。扉の部分に、触れる、なでる、軽く攻撃をしかけてみる……と、一通り、可能性を試してみましたが、何をしようと、うんともすんとも言わず……」


「ふーん……じゃあ、中身とかないんじゃない? 『こういうオブジェ』っていうだけなんじゃね?」


 そんなセンの言葉に対し、

 アダムが、遠慮がちに、


「もしかしたら、この遺跡は、ただのハリボテで、中身がないタイプであるという可能性もありますが、しかし……」


「しかし……なんだ?」


 センに問われ、

 アダムは、おずおずと、


「この遺跡からは……何かを感じるのです」


「何かねぇ……ちなみに、その何かって? 俺、何も感じんのだけど?」


 と、そこで、シューリが、


「んー、この感覚は、なんとも言えない感じでちゅねぇ」


 と、言葉を挟んできた。


「え、お前も何か感じてんの?」


「むしろ、逆に聞きたいんでちゅけど、お兄は、本当に何も感じないんでちゅか?」


「……えっと、どんな『何か』を感じたら正解なんでしょうか?」


「こう、むずがゆいというか……変に懐かしいというか……」


「……懐かしいねぇ……そいつは、また、特殊な感覚を覚えているじゃないか……」


 と、そこで、センは、ミシャに視線を向けて、


「ちなみに、ミシャは? お前も何か感じている感じ?」


「……はい。なにか……奇妙な感覚を覚えております……胸の奥が……少しだけ熱くなるような……」


「マジすか……」


 そうつぶやいてから、

 センは遺跡を見つめ、


「俺のセンサーだけバグったのかな? それとも……」


 などとつぶやきつつ、

 遺跡にソっと触れる。


 すると、


 ブーン……


 と、何かが起動するような音が響いて、






 ――  夢イベントスイッチ010 ON  ――




 『10のコスモゾーン・レリック』を所有している『主人公』の接触を確認。

 『クトゥルフの遺跡』のアップデートを開始します。


 ~~完了。


 『クトゥルフの遺跡』は、

 『クトゥルフ・オメガバスティオンの遺跡』に進化しました。







 ――どこかで、誰かが、何かをつぶやいた。

 その言葉は、センの耳には届いていない。


 しかし、


「……空気が変わった……」


 センは感じとる。

 変化。


 場の圧力が、確実に変革した。


 警戒していると、

 そこで――


 グゴゴゴゴ……


 と、サビを押しつぶすような開閉の音が響いて、

 閉じられていた遺跡の扉が開いた。

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