32話 絶対にありえない。

 32話 絶対にありえない。


「テメェみたいなカスにも、積んできたものはあるだろ? せめて、最後くらい、派手に暴れてみせろ。最後の意地を見せるのであれば、特別に、罪だけではなく『絶望の数え方』も教えてやるよ」


 そう言いながら、センは、

 ゆっくりと、


 ――『雑』に武を構え、


「さあ、殴り掛かってこい。お前が、本当に、誇り高き王族だというのなら、最後に、ガッツの一つでも見せてみろ」


「……ぐぅうう!」


 クリミアは、そこで、覚悟を決めたのか、

 強く歯を食いしばり、


「私に対し……上からモノをいうな……偉そうなことを、ぐだぐだと……イラつく……心底……ムカつくんだよぉおおおお! 死ね、独善クズ野郎ぉおお!」


 そう叫びながら、センに殴り掛かる。


 その特攻を、

 じっくりと観察してから、

 センは、


「さっきは、『殴り返したかったから、殴られてやった』が……もう、その気はないから、二度と、殴られてはやらない。お前の拳は、二度と、俺には届かない」


 そう言いながら、センは、クリミアの拳を、

 ギリギリ、紙一重のところで回避しながら、


「ほらほら、もっと、足を動かせよ、カカシじゃねぇんだから」


 そう言いながら、クリミアの足に、軽く、ローキックを入れる。

 本当に、触れる程度にしか蹴っていないので、ダメージは入っていない。


 かるくヨロメいたくらい。

 だから、当然、まだまだ戦える。


 クリミアは続けて、センに殴り掛かるが、

 しかし、当然のようによけられる。


「……く……うっ……」


 この『たった二回の攻防だけ』でも、

 『100%以上の解析度』で理解できた。


 たとえ、この先、一億回、一兆回と、殴り掛かり続けても、

 クリミアの拳が、センに届くことは、



 ――絶対にありえない。



「どんどん来いよ。……ほら、動け。たかが一回や二回よけられた程度で、手を休めるな」


 パンッ、パンッと、

 触れる程度の往復ビンタをする。


 その『虫でも払うかのようなビンタ』は、

 クリミアの怒りを、正確に刺激した。


 この極度に閉塞的な状況とも相まって、

 クリミアの怒りが一気に膨れ上がった。


「く、くぅう! がぁあああ!」


 クリミアは、

 怒りにまかせて、猛獣のように暴れる。


 その暴走は、ただのヤケクソではなく、

 クリミアが積んできた全てを詰め込んだ『命の爆発』だった。


 魔法も、体技も、アイテムも、

 全てを駆使して、

 クリミアは、センに襲い掛かる。


 しかし、

 その全てが、かわされ、いなされ、



「オーラの運用が雑。魔力の込め方が雑。雑、雑、雑、全部、雑」



 それは『指導的な発言』ではなかった。

 ただの文句。


 『お前はなっていない』

 『俺の前に立つに値しない』


 と、ただボヤいているだけ。


「ぐっ! うぅう! うぅううううっっ!!!」


 何も通じない。

 クリミアが積んできたものは、

 決してゼロではないのだけれど、

 センの前では、虚無と何も変わらなかった。


 高次の理解に届いたクリミアは、

 だから、武器を捨て、魔力とオーラを閉じた。


 苦々しい顔で、

 センの武に目を奪われながら、


(これが……『本物』の……強さか……)


 心の中で、そうつぶやきつつ、

 闇雲に、ただただ拳を繰り出し続ける。

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