5話 あのガキ、強すぎる。

 5話 あのガキ、強すぎる。



「はい、不合格。次」


 ゲンは、試験開始以降、ずっと、一定のペースで、

 受験生たちを、『ちぎっては投げ、ちぎっては投げ』……


「はい、不合格。次。――もう、さっさとこいって! テンポがわるい! 俺は、このダルい作業をさっさと終わらせたいんだ!」



 ゲンの『別格の武』を見せつけられた受験生は、

 ほぼ全員、顔を青くして、


「……おい、マジか、あのガキ……強すぎるぞ」


「完全に擬態だろ。中身は、おそらく、ムキムキの超人だ」


「勘弁してくれよ。アレに勝てなきゃ不合格って、条件、厳しすぎだろ」


「いや、勝てなくても、あのガキが認めたら合格だ」


「そんなもん建前だろ」


「負けないかぎり、認める気なんざ、ないんじゃないか?」


「俺もそう思うな。8人くらい前に不合格になったやつ、かなり強かったし」


「あのガキ、絶対に、五大家の血縁だな……うぜぇ……」


「すでに60人が不合格。誰一人合格者なし……もしかして、これ、全員落ちるんじゃ……」


「つぅか、60人と戦っているのに、汗一つかいてねぇ。どういう体力してんだ」


「……ちっ。どいつも、こいつも、ワンパンでブチのめされやがって……ちょっとは粘れよ。多少は疲弊させてくれなきゃ、勝ち目ねぇぞ、あんなもん」


「……今年も、また落ちるのか……去年といい、今年といい……俺の試験運悪すぎるだろ……なんで、俺が受ける年ばっかり、いつも、こういう難易度が異常な試験になるんだ……」


 大半の受験生が、

 己の不運を投げている中、

 少し離れた場所から状況を見守っている二人の男女が、

 誰にも聞こえない程度の声量で、ボソっと、


「あの少年、本当に強いな……楽連の上位と比べても遜色ない」


「楽連をナメるなよ、IR3。あの程度の武だと、愚連の上位が精々だ」


 ブスっとした顔でそう言う『アモン』に、

 『IR3』は、


「敵の戦闘力を正式に目算することも出来ない者は、ゼノリカの天下にふさわしくない」


「……っ」


 アモンは、ギリっと奥歯をかみしめて、


「そっくりそのままお返しするよ。つぅか、あんたは敵だけじゃなく、味方の力も正式に測れていない。楽連は、天才の中の天才が集まる至高の超人集団で――」


「そんなことはわかっている」


 アモンの反撃を、

 IR3は、バッサリと切り捨てて、


「楽連に所属している者は、最高峰の天才ばかり。そんな天才たちと比べても遜色ない超人が目の前にいる。今、重要なことは、その事実を踏まえた上で、どうするべきかを思案すること。この状況において、個人のプライドや見栄は必要ない」


 正論をぶちこまれて、

 アモンは少し怯んだが、

 すぐに心を持ち直して、


「っ……じょ、上位者ぶって説教するな……」


 グワっと牙をむく。


「僕の方が、あんたより強いんだぞ。多少は敬意を払えよ。徹底したガキ扱いは不快だ」


「あなたの才能は嫉妬に値する。あなたは強い」


 そう前を置いてから、

 スっと、冷たい視線で、

 アモンを見つめて、


「けれど、まだまだ底が浅いガキであることも事実。そして、現状の私は、あなたのお目付け役。あなたに対して敬意を払うことは、やぶさかでもないけれど、監査官としての仕事をおろそかにする気は、さらさらない」

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