75話 準備運動は終わった。

 75話 準備運動は終わった。


「世界を変えようと思ったら、出世する必要があるが、既存組織の『上』は詰まっている。クリムゾンスターズに入れば、名誉は得られるだろうけど、それ以上の未来は望めないだろう。どれだけ頑張っても『優秀な番犬』で終わるだけ。本気で世界に風穴を開けようと思えば、新興組織の中核に食い込むのがベターだと判断した。それだけの話さ」


 ――ケムスの発言を受けて、

 ゲンは、少しだけ、


(官僚思考ではなく、ベンチャー思想……『自分に自信があるから』こその選択なのか……それとも『逆だから』こその選択なのか……いまいち、理解しかねる観念……)


 などと、どうでもいい批評をしてから、


「そうまでして世界を変えたい理由はなんだ? あんたは何がしたい?」


「世界を変えることが目的だ。それ以上の理由や、それ以下の理由なんて、僕の中には存在しない。変えられるかもしれないと思ったから、変えてみたいと思った。それだけだ」


「極端な発想だな……ヤマトほどじゃないが、あんたも大概、狂っていると思うぜ。……なんで、ロコ様の周りには、変態ばっかり集まるのか……」


「類は友を呼ぶというやつだろう」


「うわー、不敬な発言だぁー」


 などと言いながら、

 ゲンは、地上に降り立って、

 レーザーファルコンを解除する。


 翼を捨てたゲンは、肩をまわしながら、


「あんたのコトが、だいたい分かってきたよ……」


「こんな、ちょっとした会話で暴かれるほど、僕の底は浅くない」


「別に暴いたつもりはねぇよ。輪郭が見えてきただけさ。シルエットくらいなら、遠目からでもわかる」


 そう言いながら、

 ゲンは、真剣卍を構える。


 そんなゲンの様子を見て、

 ケムスは、鼻で笑い、


「もう秘密兵器は打ち止めか?」


「いや、もう少しだけあるけど……あんたとは、ゴリゴリにやりあってみたくなった。……というわけで、準備運動は終わりにして、ド正面からの対話をしようぜ」


「……対話になどならないよ。君と僕ではレベルが違う」


 そう言いつも、

 ゆったりと剣を構えるケムス。


 ゲンはニっと笑って、


「さぁて、どうかな……さっきも言ったが、俺は、この学校に入って、色々知った……そして気づいた。俺の可能性は、常軌を逸しているということに」


 スゥと息を吸って、


「こいよ、ケムス・ディオグ。俺の可能性を見せてやる。だから、本気でこい」


「君の可能性なんて、みたくないよ、別に。だから、本気ではやらない。単なる『早熟の秀才』ごときに本気を出すほど、僕の才能は安くない。僕は、君とは違い、本物の天才。輝く未来を持つ選ばれた存在。――ゆえに、ここで、宣言しておく。僕は必ず、半分以下の力で君の可能性を終わらせる」


 そう言うと、

 ケムスは、恐ろしい速度で踏み込む。


 とんでもない速度だが、

 実際のところ、本気の半分以下。


 ケムスの実力はすさまじい。

 剣の腕だけで言えば、確かに、ヤマトにも匹敵している。


 ほとんど一瞬でゲンとの距離を詰めると、

 ゲンの右腕を切り飛ばそうと、

 無慈悲に弧を描いた――


 ――が、



「?!」




「華麗だな。ちょっと前の俺だったら腕を飛ばされていた気がするぜ。それで実力の半分以下とは、マジでおそれいる」

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