60話 ぴかぴかうたう!

 60話 ぴかぴかうたう!


「無様に暴れるだけの低能モンスターに気後れするほど、私の武はぬるくない」


 そう言いながら、セイバーリッチ・プチは、

 あえて、ゲンのふところに飛び込み、


「――死楼華(しろうか)――」


 老練なグリムアーツを決め込んだ。


 結果、ゲンのほとばしるエネルギーは、

 全て、自分自身にはねかえる。


「がっはぁぁああああああっ!!」


 続けて、セイバーリッチ・プチは、



「――聖煉断首(せいれんだんしゅ)――」



 ゲンの首に向けて、カカト落としを披露する。


 可動域の広い足を、ググーンっと、ブン回しながら、

 勢いよく、ズガンと、ゲンの後頚部にカカトをたたきつける。


「ぶへぇええええええええ!!」



「貴様は、すべてが雑すぎる。私の相手にはならない」



 セイバーリッチ・プチは強すぎる。

 磨き抜かれたグリムアーツの数々は、

 彼が積み重ねてきた鍛錬の結晶。


 膨大な時間を積み重ねてきたのだ――『アホでも理解できる一手』の数々。

 すべてが洗練されていた。

 なにより、美しかった。


「ぐへっ……がはっ……」


 激昂迅雷モードで、頭の中はグチャグチャになっていたが、

 しかし、だからこそ、欲望がむき出しになる。


 本能がまっすぐに前を見る。


 『セイバーリッチ・プチの武』に触れたことで、


(か、カッケェじゃねぇか……)


 ゲンの中で明確な『憧れ』が芽生えた。



(俺も……)



 想いが結集されていく。

 セイバーの美しいグリムアーツが、

 ゲン・フォースの可能性を刺激した。



(俺も、そんな風に……)



 ほとんど混乱状態で、

 しかし、ゲンの中では、

 強く、想いがままたく。



(――俺も――)



 結晶になっていく。

 弱さと脆さが共鳴する。

 互いのコアオーラの深部がまたたく。


 重なり合った二つの陰影が、

 そのまま器に生まれ変わる。




(俺もっ!!)



 想いを原動力に、

 ゲンの中で革命が起こる。


 つまりは!


 キラキラひかる!

 ぴかぴかうたう!

 ぜんぶがみえる!






「ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃっっ!!」





 獣の叫び。

 怒り狂ったモンスター。


 そんな暴走を表に出しつくすことで、

 ゲンは、『自分の奥』に、明確なフレームを刻む。


 怒りは原動力の一部にとどめて、

 芯の中身は空っぽにする。


 イメージしたのはトレース。

 セイバーリッチ・プチに、

 自分自身を投影する。


 暴走の中で、冷静さを求めた。

 キラキラと輝く、自分の中の光を。


 ――おれも……っ――


 怒りだけではなく、憧れも原動力にして、

 ゲンは、



 ――あんたみたいに……っ――



 セイバーリッチ・プチの武にあこがれた。

 その想いを具現化しようともがく。


 輪郭をうつしとる。

 当然、正確にはできない。

 けれど、不可能ではなかった。


(……俺だって……積み重ねてきたものは……あるっ!!)


 転生直後から、ずっと、

 ゲンは、アホウのように、

 たんたんと、粛々と、

 正拳突きを続けてきた。


 スライムを倒し続けるという行為には飽きたが、

 毎日の正拳突きは欠かしたことがない。


 ひたすらに、

 ただひたすらに、


 ゲンは、自分の拳を磨き続けた。


 だからこそ、届く。

 届き得る。

 その可能性だけは、

 確かにある!


 ゲンの中で芽生えた憧れは、

 それまでに積み重ねてきた全てと重なって、


「サイコジョォオカァァァァァァァッッ!!」


 ほんの一瞬だけの静寂を経て、

 激昂迅雷に重ねるサイコジョーカー。


 狂気の切り札が、ギニャリと、歪な音をたてて、

 ラージャンゲンの器に注がれる。

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