13話 デジャブ3

 13話 デジャブ3



「……お、レベル5になってる。めっちゃあがるな」


 ラムドゴブリンとラムドキマイラのデータを確認したゲン。


 レベルの数値を見た段階では喜色が見られたが、

 しかし、ステータス全体を見ていくうちに、

 どんどん表情が曇っていく。


「レベルは上がっているが、ぶっちゃけ、そんなに強くなっていないな……低級のモンスターだと、成長率も低いってことか……」


 上位になればなるほど成長率は爆発的に伸びていく。

 ただし、


「あと、基本となるモンスターランクが高いほどレベルアップに必要な経験値が多くなる感じだな……」


 『成長率』と比例して『レベルアップに必要な経験値』が、

 上位になればなるほど爆発的に上昇していく。


 『強さ』と『成長速度』は反比例する。


 ラムドカードを鍛えていくのは、かなりの根気を必要とする。



「たしか、レベル10になったら、他のラムドカードと合体できるんだよなぁ……ただ、合体後のモンスターはレベルが1に戻る……と」



 ラムド王デュエルクエストモンスターズは、合体することで、上位個体になれるが、代わりにレベルが1に戻るという面倒な仕様となっている。


 仮に、『レベル100まで鍛えていた下級のラムドカード』と、

 『レベル1の上級のラムドカード』を比べた場合、

 前者の方が圧倒的に強い。

 もちろん、レベル100まで鍛えた同士であるならば、上位の方がはるかに強いが。


「合体させるタイミングとかも重要だな……」


 やるべきこと、覚えるべきこと。

 考えるべきことはたくさんある。


 膨大な選択肢の中から『最善』を選び続けることは難しい。

 しかし『難しい・易しい』に悩んでいるヒマはない。

 今は、とにかく、やるしかない。

 もがいて、あがいて、

 一歩ずつ、前に進んでいく。



「……とりあえず、今日は帰るか」



 そうつぶやいて、

 ゲンは『チョコネコのもっと不思議な館』を後にした。




 ★




 扉の外に出ると、

 そこでは、まだ、暗号解除の方法を熱心に探しているボーレがいた。

 一心不乱に壁をなぞったり、床を踏みしめたりしている。


「集中力はすごいな……性根はクソだけど」


 呟きながら、

 ゲンは、

 ポンと、ボーレの肩をたたく。


「ん、どうした、後輩? 何か見つかったか?」


「疲れたから、俺、もう帰る」


「あん? なにを軟弱な……まだ探索開始から20分も経っていないぞ」


「20分も探索したんだから立派なものだろ。まだやり足りないってんなら、一人で勝手にやってくれ。俺は帰る。マジで疲れた」


「根性なしめ……」


「あぁん? 『根性しかない』と言われた事がある俺様を相手に、なんと無礼な!」


 不満を口にしつつ、

 ゲンは、ボーレに背を向ける。


 そして、そのまま一度も振り返ることなく、

 その場を後にした。




 ★




 寮に帰ったゲンは、

 小汚い自室に入るとすぐ、二段ベッドの下に腰をかけ、


(講義を受けて、勉強や訓練にも時間を割いて、その上で、もっと不思議な館を探索……めちゃくちゃハードなスケジュールだな……精神力と体力をエグいくらいに消費する)


 深いため息をつきつつ、

 天を仰ぎ、


(まあ、でも、不可能じゃないな……嫌いなことだったら、さすがに続けられなかったと思うけど、今の俺がやっていることは、全部、俺がやりたかったこと……その上、今の俺には『ロコの剣になる』という目標もある。俺はまだまだ止まらねぇ)


 などと考えていると、そこで、扉がガチャっと開いて、


「あれ、ゲン……いつ帰ったんだ?」


 ルームメイトでクラスメートでもある二年生のマークが入ってきて、そう言った。


 間髪いれずにゲンは、


「ついさっきです」


 と、丁寧に答える。

 マークは、ゲンに対して、ルームメイトとしてもクラスートとしても、それなりに『普通(別に良い先輩というわけではないが、悪い先輩でもない)』に接してくれている、きわめて普通の先輩。

 なので、ゲンも、彼に対しては、最低限の敬意を払う。


 ちなみに、マークもかなりの努力家であり、

 毎日、朝から晩まで勉強&訓練で大忙しの生活を送っているため、

 睡眠時の深さがハンパではなく、隣でゲンが何をしようと、

 朝の五時になるまで絶対に起きない。


 そんな先輩がルームメイトであるため、

 ゲンは、気兼ねなく、夜中も、勉強&訓練にいそしむことができる。


「ちょっと図書館で寝てまして……」


 というゲンの返答を聞くと、

 マークは、渋い顔で、

 親指で扉の向こうを指さしながら、


「ババア(寮長)がキレてたぞ」


「は? なんで……ですか?」


「なんで、って……『自己強化魔法の特訓をしてもらう約束』をしていたんだろ? 『自分から言ってきておいて、サボるとは何事だ、あのガキ』って、めっちゃキレてたぞ。ウゼェから謝ってこい」


 言いながら、梯子(はしご)を上って、上のベッドに寝転がるマーク。


 マークの言葉を受けたゲンは、頭を抱えて、



「うぉおお……完全に忘れてた……だりぃ……」



 一度深いため息をついてから、重い腰をあげる。


 寮長のサンドラは、かつて、全宮学園のクラスAで主席を張っていた実力者。

 特に自己強化魔法を得意としている一級のバフ使い。


 その話を聞いたゲンは、『ぜひ、ご教授を』と頼み込み、

 特訓の約束を取り付けたのだが、

 いろいろあって、つい忘れてしまっていた。

 ※ 本格的に教えてもらう気はなく、本を読むだけでは理解できない、

   『基礎概要』だけ教えてもらって、あとは独学に切り替えるつもりだった。



(あのババァ、説教が長いタイプっぽかったんだよなぁ……時間とられるのやだなぁ……)



 などとつぶやきつつ、

 ゲンは、寮長のもとへと向かったのだった。



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