8話 デジャブ2。

 8話 デジャブ2。


「……ステーキ定食、弱火でじっくり」


 そう言うと、大木がブブブっと揺れて、人が入れる大きさの穴が開いた。


「……なんだ、これ」


「びっくりだろ。呪文をとなえると通れるようになるんだ」


「こんな場所、よくみつけたな」


「完全に偶然だけどな。もともと、この大木は、なんか怪しいと思って、この3年間、いろいろとやってはきたんだが……押しても引いてもなんともなくて、けど、あきらめずに、今日の昼休みも、色々とやって、腹が減った時、ふと、昼飯の事を考えて、ボソっと口にしたら、こうなったってわけだ」


(……弱火でじっくりねぇ……完全にハンタネタだが……)


「ちなみに『俺の見立てで怪しかったランキング』でいうと、ここは二位だけどな。一位は図書館だ。あそこがぶっちぎりで怪しかったから、基本的には、あそこで一日の五時間以上を費やして、棚の位置をズラしてみたり、本の背表紙を押してみたりと、ひたすらに色々とやったんだよ。ビックリするくらい、何もなかったけど」


「毎日五時間……そんな無意味なことを」


「実際、図書館に使った時間は無意味だったなぁ。いやぁ、しかし、ただの現実逃避だったのに、まさか、マジでこんな奇妙な秘密を見つけてしまうとは……我ながら、自分の奇運っぷりには驚かされる」


 言いながら、大木に出来た穴の中へと入っていくボーレ。

 たっぷりとした下腹部をどうにか押し込めて奥へと進む。


 穴の中は、トンネル状になっており、その長さは20メートルくらいだった。


(このトンネル……けっこうな大木だったとはいえ、あきらかに実面積を超えている……つまり、これは、実際の空間ではなく異空間だな……)


 大木の穴は、異空間への出入り口であって、実際に木に穴が開いているわけではない。


 まっすぐに降りると、光の魔法がかけられた通路に出た。


 徒歩五秒ほどの距離になっている通路を抜けると、

 そこには、体育館くらいの広い空間があって、その奥には、



「……なんだ、あの扉……」



 『禁域の扉』と似たようなフォルムの扉があった。

 もちろん、ゲンは、その扉が『禁域にあるものと似ている』などとは思わない。


「あの奥にはきっと、金銀財宝がたくさんあるぞ……」


 目をキラキラさせてそんな事をいうボーレ。

 それを横目に、


(マジで大金があったら、普通にありがたいなぁ。闇市の商品で欲しいモノは、ほかにもたくさんある)


 などと考えていると、

 ボーレがトテトテと扉に近づき、


「さぁて、この扉はどうやったら開くのかなぁ……」


 まずは、押したり引いたりしてみた。

 だが、何も起こらない。

 そこで、ボーレは、扉の周囲を探しだす。


 ゲンも、それに続いて、色々と探してみた。

 すると、

 ほんの十数秒の探索で、ボーレが、


「おい、ゲン。みつけたぞ。ボタンを押したら、文字盤が出てきた」


 そこまでは歓喜の声に包まれていたが、


「あ、でも……ぜんぜん知らん言葉だ!」


 すぐさま絶望の声に変わった。


「その上、複雑すぎる! これだけ、色々な形態で書かれているということは、きっと、おそろしく難しい暗号だ! 俺にとけるわけねぇ! どうしよう! 詰んだぁあああ!」


 頭を抱えて嘆くボーレ。

 そんなボーレの横から、どれどれと文字盤を覗きこむピーツ。




 その文字盤には、こう書かれていた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 4 :仕様書不明さん :00/00/00 00:04

  ∧__∧ **  

 ( ´∀`)< ぬるぽ


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


それ見たゲンは、つい反射的に、

 その文字盤を殴りながら、


「……ガッ」


 そう呟いてしまった。


「ゲンさん?! ちょっ、おい、どうした、急に! 情緒不安定か?!」


 ゲンの奇行にびっくりして、そう叫ぶボーレ。


 しかし、そこで、ピンポーンと音がして、

 グゴゴゴゴと大きな音をたてて扉が開いた。


「……ナメてんなぁ」


 ボソっとそうつぶやいたゲンに、

 ボーレは、


「いくら、暗号の難易度が高いからってヤケをおこすな。俺もさっきは大分動揺してしまったワケだが、お前の奇行を見て逆に冷静になれたよ。うん、逆によかった。慌てる後輩、なだめる先輩。俺達は意外と良いコンビかもしれない。よし、というわけで、まずは、この暗号を解くためのヒントがないか探してみよう」


「……は?」


「ん、どうした?」


「扉なら開いただろ」


「……ゲン後輩。ほんとうに、どうした、大丈夫か?」


 ガチで心配そうな顔をしているボーレ。

 そこに違和感を覚えたゲンは、


「一個、質問をする。ちゃんと答えてくれ、ボーレ先輩」


「お、おう……どうした、ゲン後輩」


「今、扉は、しまっている。そうだな?」


「まあ、そうだな。開いていたら、とっくに中へと入っているワケだからなぁ」


「……」


 そこで、ゲンは扉に視線を向けてみた。


(間違いなく開いている……)


 扉は開いていて、

 中から淡い光が漏れている。

 光が邪魔で、奥は見えなかったが、確かに……


(……まさか、『開いたように見えている』のは俺だけか? なんだ、それ……どういう状況だ……)


 数秒、考えてみて、


(もしかして、暗号を解いた者しか『中に入る事が出来ない』のはもちろん、『扉が開いたと感じる事』さえもできない、とか? ……うーむ……)


「妙な事を言っていないで、お前もヒントを探せよ」


 そう言って、ボーレは、この空間のあちこちを探しだす。

 その背中を横目に、

 ゲンは、


(……行ってみるか……)


 心の中でボソっとそう呟いてから、


「ふぅ~」


 と、一度深呼吸をして、

 扉の奥へと足を踏み進めた。


 慎重に、おそるおそる、まっすぐに、

 先の見えない奥へ、奥へと進んでいく。

 淡い光に包まれた謎の通路。

 『光っている』という事以外、なにも認識できない妙な道。


 そんな通路を10秒ほどまっすぐ進むと、そこで、


「……ん」


 光が落ちついている空間があった。

 先ほどの『扉があった空間』よりもさらに大きい。


 その空間の最奥には、

 また扉があって、

 その扉の横には石板があった。


 その石板に書かれていたのは次の通り。




『ようこそ、チョコネコのもっと不思議な館へ』




「……もっと不思議系か……怖いな……」


 ローグ系のゲームを嗜(たしな)んだコトもあるので、

 『もっと』の怖さは知っている。


「もし、俺の知っている通りの『もっと不思議』だと、持ち込み不可で、アイテムは全部未識別で、かつ呪われたマイナスアイテムてんこ盛りで、おまけに、敵の殺意がMAXという、常時『だいぶ尖った幸運』が味方してくれないと、いつでもどこでも、サクっと事故死してしまうアルティメットなデスロードなんだけど……ここも、その手のヤベぇ感じなのかな?」

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