伝えられない想い。

 伝えられない想い。


(……仮バグを失ってしまった今の私は、出力の点で言えば、以前と大して変わっておらん……主との対話で、戦闘力には明確な革命が起こっているものの、それも、あくまで、私の可能性が開き始めたというだけで、他者の目にも分かるほど劇的な変化とはいいがたい)


 明らかにバンプティは強くなっている。

 間違いなく、武のステージが数段階ほど引き上げられた。

 しかし、それは、器が強固になったというだけであり、

 存在値や戦闘力が数倍にハネ上がったというものではない。


 ゆえに、仮に、その強さをジャミに見せたとしても、


『あれ? なんだか、妙に強くなっているな。なにかコツでもつかんだのかな? それとも、トレーニング方法をかえた?』


 という常識的な反応を引き出して終わりだろう。


 『その理解』に至ってからも、

 バンプティは、いろいろと思案してみたが、

 結局、優良な手段を思いつくには至らず、


(……主と同じ時代を生きた方々は、みな、こんな気持ちを抱えて生きていたのか……なるほど……パメラノ猊下が、時折、無性に寂しげな表情を浮かべる理由はこれか……)


 神を理解した者は、

 大概、同時に、パメラノの気持ちを理解する。


(これは苦しい……これはつらい……主の輝きは、触れたものにしか伝わらぬ。このもどしかしさ……この切なさ……この侘(わび)しさ……だが、しかし、同時に……)


 心の閉塞感を覚えるかたわらで、しかし確かに、頬がほころぶ。


 『みっともない』と理性では理解できているのだが、

 しかし、

 身を震わせる優越感をとめることが出来ない。


(ぬしは知らない……だが、私は知っている。神の光を……主の美しさを……)


 心が沸き立つ。

 『主を知っている』という感情の全てが、

 バンプティの中で、強固な光となっていく。


「バンプティ……どうした? 急に黙り込んで」


「なに……どう伝えたらよいか、悩んでしまってな……」


 そう前を置いてから、

 バンプティは、ジャミの目をジっと見つめ、


「ゼノリカによって統治されているこの世界は素晴らしい。ぬしはそう思わぬか?」


「思わないワケがない。この世界は美しい」


「それが……それこそが、真理の体験」


「なるほど。世界の美しさを改めて認識しなおすことで、主への感謝が沸き上がった、と」


「まあ、そんなところじゃ。世界のために尽力してくれた尊き神を称えるのは当然の話。一部の信者だけではなく、この世に生きる全ての者が、主を称えるべき。それが私の結論じゃ」


「何を信じるかは自由だから、あなたがどんな結論を胸に抱くかに関しては何も言わない。けれど、その自由は、あらゆるベクトルで、かつ、すべての者に許されている権利だということをお忘れなく」


 そう言うと、ジャミは、

 チラっと壁時計に視線を向けて、


「それでは、そろそろ失礼する。聖誕祭の栄典式がそろそろ始まるのでね。カドヒト捕縛の件については、また今度、話を聞かせてほしい」


 聖誕祭では、各地で、様々なイベントが催される。

 その中でも、格式と品位が高いイベントの優勝者には、

 かなりランクの高い勲章が授与される。


 その式典に、『象徴』として参加するのも、

 九華の役目の一つ。



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