そんな真理にそぐわぬ規則など『クソくらえ』じゃい!

 そんな真理にそぐわぬ規則など『クソくらえ』じゃい!


(老害感がすごいな……こんな人じゃなかったはずだが……)


 ジャミは渋い顔で、


(……いったい、どうしたというのだ? この人も、私と同じで、根っこの部分では、主という概念に対して、一歩引いた目でみていたはずだが……)


「――ジャミよ。ぬしの言う通り、九華の中は、聖典を信じておらぬ者が多い……これは、本当に、由々しき事態じゃ。どうにか、是正してゆかねばならぬ」


 狂気の目でそんなことをつぶやくバンプティに対し、

 ジャミは、渋い顔で、


「どんな心変わりがあったのか知らないが……一応、言っておくと、過度な布教は、真・神法で、明確に禁じられている。その辺のことを忘れないように」


「やかましい! そんな真理にそぐわぬ規則など『クソくらえ』じゃい!」


「真・神法は、神が直接定めたとされる、この世で最も大事なルールなのだが……」


 呆れた顔になるジャミから視線を外し、

 バンプティは、


「本質を見よ! ジャミ・ラストローズ・B・アトラーよ! 主は高潔すぎるがゆえに、ご自身の価値を正しく認識されておられない! この点に関しては、我ら『臣下』が率先して改善してゆかねばならぬ『人が為(ため)の問題』よ」


「……は、はぁ……」


「なんじゃ、その狂人を見る目は……弟子の分際で、師の意見にたてつく気か? そもそも、師の話を聞く姿勢がなっとらん。正座して聞かんかい!」


(……あんた、さっきまで、師匠扱いするなって……)


 重度の呆れの中でタメ息をつくジャミは、

 心底からしんどそうな顔で、


「落ち着いてくれ、バンプティ。いったい、どうした? なぜ、そんなに混乱している?」


「混乱などしておらん。真理を体験しただけじゃ」


「真理を体験ねぇ……ちなみに、それは、いったい、どんな?」


「ふふん。うらやむがいい。私は、先ほどまで、主と……」


 と、そこまで言ったところで、

 バンプティは、ピタっと口をとめて、

 心の中で、


(どういったら……信じるじゃろうか……)


 少しだけ冷静に、現実を向き合ってみる。

 すると、問題が山積みであることに気づく。


(このバカ弟子は、『実際に主を知っているパメラノ猊下』から、幾度となく、主の話を聞いてきた……しかし、結局、まったく信じなかった大うつけ者……)


 パメラノの側近かつジャミの師だったがゆえに、バンプティは、

 ジャミが『パメラノの話を右から左へスルーしている』ということも知っている。


(主が『表舞台』で活躍されていた頃の『ほぼ全て』を知っているパメラノ猊下の熱弁を意にも解さなかった『このアホの子』に……何をどう言えば、主の輝きを伝えられるのじゃろうか……)


 考えれば考えるほど迷路にはまっていく。

 主の輝きはあまりにも美しすぎて、

 言葉だけで伝えようとすると、

 どの角度から切り込んだとて、

 絶対的に、どうにも嘘くさくなってしまう。


(主に刻んでいただいた器を示してみせれば、あるいは……)


 と、考えたものの、しかし、


(……仮バグを失ってしまった今の私は、出力の点で言えば、以前と大して変わっておらん……主との対話で、戦闘力には明確な革命が起こっているものの、それも、あくまで、私の可能性が開き始めたというだけで、他者の目にも分かるほど劇的な変化とはいいがたい)


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