いきすぎた愛。

 いきすぎた愛。


「イーウ、お前の視点は、俺とはだいぶ違うな。俺は、センエースという概念が嫌いだ。存在しないものをあがめるのはスッパリとやめるべきだと思っている。存在しないものを変にあがめてしまうと、『本当に大事なもの』に対しての敬意が薄れてしまうから。俺は、それが、すごくいやだから」


「本当に大事なもの?」


「三至とか五聖とか九華とか……本当に存在していて、世界のために尽力した神々……そういう天上の功績を、偶像に置換して薄めて……いやなんだよ、そういうの……」


「まあ、わからなくもないな、その気持ち。俺の場合、考え方の根本に、『偶像に置換されたからといって、天上の功績が消えるわけではない』ってのがあるから『聖典上においては、すべての軌跡がセンエースという奇跡に置換されている』という奇妙な現実を前にしても、『おかしい』とは思うが、しかし、そこまでが限度で、特に『過剰な感情』を抱きはしないんだが……スール、お前の言いたいことも、わからないではない」


「なあ、イーウ。聖典に書かれていることは『結局は全部センエースのおかげ』っていうふざけた英雄譚だけが嘘で『起こったこと』は事実だよな?」


「ああ、それは、間違いないと思う。今も世界各地に痛ましい破壊の痕跡は残っている。世界が平定されるまでの間に起こった『地獄のような闘いの歴史』は絶対に嘘じゃない……はずだ」


「見ていないから、実際にどのぐらいの激闘だったのかはわからない。けど、聖典に書かれているような『ケタが違うバケモノの暴走』が事実なら、その対処に奔走した神々の苦悩や努力や労力ははかりしれないはず……そんな本物の勇気を……ただの妄想でかき消すのは……絶対に間違っている。そんなことをしちゃいけないんだ」


「天上の方々を尊敬しているんだな、お前は」


「当たり前だ。俺たちがこうして、幸福に生きていられるのは、全部、天上のかたたちが血と涙を流してくれたからなのだから」




 ★




 反聖典組織リフレクションのリーダー『カドヒト・イッツガイ』は、

 とにかく『センエースはそこまで大した男じゃない』という事を広めようとしている超人で、『センエースの名を貶めるため』なら何でもしてきた狂気のド変態。


 『敬虔な聖典教の信者』に対して、日夜『センエースは、単なる人格破綻者でしかない』と言いふらす謎の奇行を繰り返している本物のサイコパス。


 ――なのだが、構成員の『考え方』は千差万別で、

 神法に触れるような『明確な犯罪者』は少ない。


 秩序の番人であり『この上なく尊き神』を愛してやまない『ゼノリカ』は、

 当然、『反聖典組織』をつぶしたいと考えているのだが、

 『センエースを信じない自由』は、

 神法の『一つ上』に位置する『真・神法』によって守られているため、

 『聖典を批判しているから』という理由で逮捕したりは出来ない。



 ――とはいえ、『ニ・ゼノリカ大聖堂』で行われている、

 センエースの誕生を祝う『聖誕祭』に乗り込んで、

 ゼノリカの天上九華十傑の第二席である、

 『パメラノ・コット・N・ロッドのスピーチ』を邪魔したとなれば、

 当然、捕縛されて連行されるワケで……



「俺はリーダーとは違い、間違っていることを、間違っていると言っただけだ。咎められる理由はないと考える」



 連行された『彼』――反聖典組織リフレクションのメンバー『スール』は、

 たんたんと、自分の主張を述べる。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る