一か所だけバツ印が書かれている地図。

 一か所だけバツ印が書かれている地図。


「お前の望みは間違いなく叶う。それはもう『決まっていること』なんだ」


 などと、また意味の分からないことを言ってくる。


 意味は理解できないが、

 しかし、仮に、ナイアの言葉が事実だと仮定した場合、


「ぉ、お前は……なんだ……なんなんだ……?」


 心がザワっとした。

 理解できない何かを見る目。


 敬意とか畏怖とか、そういう画一的な感情の向こう側。

 得体のしれない歪みそのもの――そんな感じがした。


 そんなザコーに対し、

 ナイアは、目を輝かせて、


「よくぞ聞いてくれたね! 我こそは千なる無――っとっとっと……聞かれたら、つい答えそうになっちゃうねぇ。悪いクセだ」


 などと言いつつ、


「悪いが、お前には、俺の名乗りを聞く資格がない」


 そう言い捨ててから、


「本題に戻ろう。ヤマトがいなければ、探索が困難になるのは事実。というか、自力では不可能。『エイボンの書』を探し出すには『領域外の手掛かり』が必須。というわけで、これをくれてやる」


 ナイアが指を鳴らすと、

 ザコーの目の前に、

 『一か所だけバツ印が書かれている地図』が出現した。


「そこを探してみるといい。――そこにエイボンの書があるってワケじゃないけど、ヒントはそこにある」


「……な、なにがヒントだ……おちょくりやがって……てめぇが、本当にエイボンの書の在りかを知っているのなら、その場所を、そのまま教えてみやがれってんだ、クソったれが……」


「残念ながら、それは出来ない。まだその時期じゃない」


「……はぁ……時期じゃない? わけがわからん……」


「お前にはお前の仕事があるが、まだそのターンじゃない……って感じかな。まあ、とにかく、ヒントはやったんだから、ヤマトの豪運に頼るのはやめて、全力で追いかけてみろ。『決死の努力』が前提ではあるが、しかし、そのヒントを追い続ければ、確実に、ゴールまでたどり着ける」


「……」


「じゃあな、ザコー」


「マジで、あんたは……何者だ……? どういう存在なんだ……?」


 どうしても尋ねずにはいられない質問。

 その問いに対するナイアの答えは決まっている。

 『お前には俺の名乗りを受ける資格がない』


 ――だが、同じ返答を並べるのも芸がないと思い、

 だからこそ、


「まれによくいる、ちょっとシャイな5歳児さ」


 最後にそう言い捨てると、

 ゲンは、そのまま10階に降りてしまった。




 ★




 試験の結果は言うまでもなく、

 ゲン・ロコ・ヤマトの三人だけが合格し、

 あとは全員不合格。


 時間内に10階までたどり着いた者は三人。

 ザコーを除くほかの受験生は、時間内に五階にたどり着くことさえできなかった。

 稀に見る難易度の高い試験だった。



 ――入学が決まったことで、

 正式に、ロコは、ルルの支配下におさまり、

 全宮家の人間であっても、そう簡単には手出しができなくなった。


 そうなる前に手を打たなければいけなかったのだが、時すでにお寿司。




「……ゴキの『リーダー』&『ナンバースリー』の二人がかりで、五歳の幼女一人殺せないとはな」




 全宮アギトの邸宅で、

 テーブルをはさんでソファーに座り、向かい合っているアギトとザコーの二人。


 怒りに震えているアギトから、

 容赦のない小言を言われたザコーは、


「ヤマトが寝返ったから、正確には『俺一人』で『ヤマト&ロコ』に挑んだ形だがな」


 シレっと、そう言い返した。

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