ヤマトの価値。

 ヤマトの価値。


「ちゃんと考えて答えを出せ」


 そう宣言し、ヤマトたちに背を向け、

 試験会場である館の中へと進んでいったザコー。


 ――その背中を見送りつつ、ロコが、


「妙なことになったわね……」


 鬱陶しそうな顔でそうつぶやいた。


「絶対に逃がさないって顔をしていたけど……ゴキって、そんなに、自主脱退に厳しい組織だったっけ? 『やめたいやつは好きにしろ、どうでもいい』……みたいなシニカルな感じだったように思うのだけれど?」


 そう思っていたから『ヤマトがゴキをやめるとなってもモメ事にはならないだろう』と安心していた……というか、楽観視していたのだが……


「まあ、私は宇宙一の万能天才ですからねぇ。これほどレアな逸材を逃したくないんでしょうねぇ、あはははははぁ」


 臆面もなく、ケラケラ笑いながらそういうヤマト。


 ヤマトは、

 『気まぐれのくせに頑固』という、

 『なんだかよくわからない厄介な性質』を持ち、

 『プライドの高さ』も『頭のおかしさ』もナンバーワンで、

 『扱いづらさ』は『世界一』とまで評されている面倒な人間だが、


 ザコーは、そんなヤマトの事を、

 『ゴキの遊撃隊長を任せられるのは、ああいう本物の変態だけだ』

 と評し、チームメンバーとして非常に気に入っていた。


 『ナンバーワン(リーダー)』や『ナンバーツー(副リーダー)』といったポジションは決して任せることはできない。

 が、遊撃隊長としては非常に有能。


 事実、万能の才能を持ち、

 戦闘力も非常に高く、

 あと、なんだか妙に運がいい。


 『信頼すること』など絶対に出来ないが、

 『奇抜さ』や『面白さ』で言えばピカイチのパンクスター。


 スーパーカリスマアウトサイダーズには欠かせない看板アイドル。


「笑っている場合じゃないでしょ。ザコーの、あの目……何が何でもあたしを殺す……そんな目をしていたのだけれど?」


「ザコーくんは、目的達成のためならば『病的な執着心』を見せてくる獰猛な蛇みたいな男ですからねぇ。狙われたら最後ですよぉ」


 と、そこで、ゲンが、


「……『最後ですよぉ』じゃねぇんだよ。話を聞いた限り、ザコーが執着しているのは、ロコ様じゃなくて、お前だろう。つまり、こうなった原因は、お前にあるんだから、ザコーの対処、マジで頼むぞ」


 ゲンは、別段、情報弱者というわけではない。

 ザコーは有名人であり、その噂はかねがね聞いているので、当然『今の自分では対処できない』ということは理解できている。

 その上、現状をややこしくしている原因は間違いなくヤマトであるという認識。

 ゆえに、ゲンは、責任の大半をヤマトに押し付ける。


「ロコ様が殺されるっていうのは、ダメな展開っぽいから、もちろん、力の限り、お守りさせていただくつもりではあるんだけどねぇ。ザコーくんは強いからねぇ。絶対に守れるとは言えないねぇ」


 ヤマトの発言を耳にしながら、

 ゲンは、心の中で、


(……次から次へと命を狙われるお姫様……とんでもなく厄介な女だ……なんで、俺は、こんな面倒極まりないバカ女の剣を目指しているんだ……勘弁してくれよ、俺……)


 と、自分に対する文句をたれた。

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