勧誘。

 勧誘。


「あたしの配下にならない?」


 そう勧誘をかけた。

 ヤマトが何か言うよりもはやく、

 たたみかけるように、


「私は将来、この世界の支配構造を破壊する組織を立ち上げるわ。その組織の幹部として、あなたを迎えたい。どう?」


「ふむ」


 そこで、ヤマトは腕を組んで、天を仰いだ。

 数秒、沈黙してから、


「世界の支配構造を破壊する組織……なるほどぉ、面白そうですねぇ。嫌いではないですよ、そういうナナメから世界を見る視点」


 そうつぶやいてから、


「まあ、でもぉ」


 と、前を置き、


「やめておきまぁす。あなたにつくのも悪くない案なんですが、そうすると、ザコーくんが怒りそうなのでぇ」


 ばっさりと、ロコの提案を切るヤマト。


「お互い壊れているせいか、ザコーくんとは、それなりに話があいましてねぇ。できれば、今の関係のままでいたいんですよぉ。友人ではなくとも、親しい知人ではあるつもりで、その関係は崩したくないんですよねぇ」


「ザコーも勧誘したいと考えているわ。あなたとザコーの二人……だけではなく、ゴキのメンバー全員を、私の配下にしたい。それがあたしの願い」


「ああ、それは不可能でしょうねぇ。ウチのメンバーは、みんな、頭がおかしいのでぇ」


 ヤマトは、屈託のない笑顔でケラケラと笑って、


「ゴキの中では、私が一番まともなんですよぉ。みんな、私以上に壊れているのでぇす。それを考えれば、ゴキを支配下におさめるというのが、いかに不可能かご理解いただけるでしょぉ?」


 ちなみに、ゴキのメンバーは、全員が全員、『自分が一番マシだ』と思っている。

 ヤバい人間というのは、だいたいそういうもの。

 自分だけはまともで、自分以外は壊れている――と思っているのが、壊れている人間の基本的なスタイル。


 ちなみに、ゴキのメンバー全員に『ゴキの中で誰が一番イカれていますか?』とアンケートをとったら、ヤマトがぶっちぎりで一位を取る。

 彼の異常性は異常。


「全宮テラでさえ、ゴキの事は完全に支配下に置いているわけではありませぇん。ゴキの面々を完全に従えるのは不可能ですねぇ」


 一応、ゴキも、シロアリのように、

 実質的には『五大家の支配下』ということになるのだが、


 ゴキの場合、シロアリのような『完全な配下』というわけではない。


 『たまにお願いを聞いてくれ』

 『いきすぎた無茶はしないでくれ』

 『その約束さえ守ってくれるのなら、多少のことには目をつぶる』

 ――その三つが、全宮家のゴキに対する基本スタンス。


 一応、配下というポジションではあるが、

 決して『犬』ではない。

 あえて例えるならば、全宮家にとってのゴキは、

 『死ぬほど面倒だけど敵に回すのはもっとダルいから仕方なく提携しているビジネスパートナー』。


「ザコーくんは……まあ、話くらいは聞いてくれるかもしれませんがねぇ……ザコーくんも、頻繁に、世界を壊したいと言っているのでぇ」


「そう。話があいそうだわ」


「ぁ、でも……どうですかねぇ……あなたとザコーくんでは、方向性が違う気がしますねぇ。別に、あなたたち二人の思想を理解しているわけではないですが……なんとなく、そんな気がしまぁす」


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