2兆の使い道。


 2兆の使い道。


(ロコにつけば、俺も抹殺対象になりうる……というか、アギトの視点だと、ここで降参しないようなバカは、たいがい鬱陶しいから、確実に始末しようとするだろう……ロコについているのは、メリットがなさすぎる)


 事実を理解しようと必死。

 自分に言い聞かせていく。


 現状。

 原理。


(2兆はエグい……ハンパない。それだけあれば、全部手に入る。他のやつでは、使い道がないだろうが、俺には闇市がある)


 アギトが『2兆』という金額を提示した理由は、もう一つある。

 それは、

 『一般人では使い道がない』というもの。


 当たり前だが、普通のマーケットで、2兆円を必要とする場などない。

 家、酒、車、女。

 『利己的な贅沢』に使おうとしても、使い切れる額じゃない。

 実際のところ『50億』も使えば『一生分の贅沢』が終わる。


 『欲に限界はない』と言うが、

 実際のところ『壊れていない限り、欲にも限界はある』のだ。

 『ホメオスタシス(肉体が求める現状維持)』が正常に働けば、

 食欲も性欲も、一定のところで制御がかかる。


 もちろん、生理に逆らって、

 『ありえないほどの無茶』をしようとすれば、

 どうにか出来るかもしれない。


 文字通り歴史通りの『酒池肉林』を実行しようとすれば、

 それだけの金を使いきることも、不可能ではないかもしれない。


 だが、『立場』があればそれも不可能。

 『権威』ではなく『立場』だけを有する者ならば、

 酒池肉林など出来るわけがない。


 だからこその地位。

 アギトがゲンに金とセットで『高い地位』を与えようとしているのは、

 ノブレス・オブリージュという名の首輪をはめようとしていることに他ならない。


 結局のところ『立場を鑑みた上』で『莫大な大金』を使おうとすれば、

 『経済』という『土台』に対してアプローチするしか手がなくなる。


 『市場』への投資。

 『公共事業』への着手。


 つまりは、結局のところ『全宮家』に還元されるということ。



 ――本来であれば『市場で金を動かすだけの装置』になるしかないが、

 しかし、ゲンには闇市がある。


 限りなく貪欲に『最果て』を求めることができる裏のマーケット。


 最果てを求めるゲンにとって、金はいくらあっても足りない。

 正直『数百億程度』ではまったく足りないのだ。


(2兆あれば、きっと、下地が手にはいる。すさまじい強さを手に入れることができるだろう。おそらく、その力をもとにして、もっと金を増やすことができる。金は金のあるところに、力は力のあるところに集まる。……絶対の強さは、さらなる強さを求めるための下地となって、俺の器になってくれる)


 2兆円の魅力ははかりしれない。

 ここでアギトの手を取れば、

 ゲンは望む全てを手に入れられる。


(アギトを選べば……俺は全てを手に入れる。欲しかったもの全部が……この手に……)


 『当たり前の欲』がゲンの中でうずまく。

 数値の魔力。

 2兆という、エゲつない数字は、

 見事に、ゲンの心をかき乱した。


 『普通』であれば、

 ここで、アギトを選択するだろう。


 常識的に考えれば、誰だって、ここはアギト一択。


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