毒組副長ヒジカ。

毒組副長ヒジカ。


(ガキのうちだと、まともな仕事につくのすら難しい……それゆえに『裏でのし上がるしかない』と決意したし、その過程で起こりうる『ガキゆえに苛まれる面倒』のリスクヘッジに『かなりのリソース』を割くつもり満々だったけど……毒組のバイトでいくなら、余計なことを考えなくてもいい……悪くない……)


 ゲンが、いろいろと、未来を演算していると、

 ソウルさんが、


「もちろん『実際のところ将来的にどうしたいか』は、ゆっくり考えて決めるといい。毒組での雑用は、あくまでも、将来の可能性を広げるための一助と考えてもらえれば、それが何よりだと思っている」


「……いろいろ考えていただき、感謝します」


「親が子供のことを考えるのはただの義務だ。感謝されるようなことじゃない。お前が考えるべきは、そんな親の義務を奪わないためにはどうするべきか。それだけだ」


 ソウルさんは、笑顔でそう言ってから、


「ウチには、二人、突出した剣の達人がいる。どちらも天才で努力家。そうそう出会えない真の強者。話は通しておくから、彼らから、武を学ぶといい」


(それは普通にありがたいな。スライムを殴り続けるだけではたどり着けない世界がある。そろそろ強者の師匠が欲しかったところ)




 ★




 毒組の屯所は、エリアB780に位置するビル一帯。


 受付を顔パスでスルーすると、

 ソウルさんは、奥のエレベーターに乗り込んだ。

 数秒後、たどり着いたのは五階。


 チーンと音がなって扉が開く。

 外に出て、まっすぐ進むと、

 そこで、



「……ん……局長、そのガキは何だ?」



 鋭い目つきの男が、そう声をかけてきた。

 挨拶をするでもなく、

 敬語を使うでもなく、

 けだるげな雰囲気で、

 ゲンをジっとにらんでいる。

 雰囲気はけだるげだが、目の奥はギラギラと光っている。


 ゲンは、その男の所作一連を見て、


(この男……たぶん、かなり強いな……)


 心の中でそうつぶやく。

 目の前にいる『この目つきの悪い男』が、

 『具体的に、どのくらい強い』のか――それは、もちろん、わからない。

 しかし、『なんとなく』は感じる。


 明らかな強者の気配。

 ピリピリとした空気感。



「ウチの息子だ。今日からここでバイトさせることにした」



 ソウルさんの言葉を聞いて、

 鋭い目つきの男は、

 思いっきり渋い表情となり、


「バイトって……バカかよ……ここはコンビニじゃねぇんだぞ」


 そうつぶやいてから、


「つぅか……あんたのガキって確か……まだ五つか六つだよな?」


「ああ、今年五歳になった。子供の成長というのは早いものだなぁ。つい、ちょっと前までハイハイをしていかと思えば、いつのまにか、支配者を夢見る野心家になっていた」


「……ちょっと何言っているか分かんねぇなぁ」


「ウチの子はすごいぞぉ。なんせ、将来の夢が、五大家の中枢に食い込むだからな」


「なるほど、とてつもないバカ息子ってことか。理解した」


「ウチの息子をバカにすると許さんぞ。いいか、ヒジカ。この子は、口だけではなく、その野心を実現させうる可能性を秘めている」




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