ゴミスは死んだ。

ゴミスは死んだ。


(仮に『神とは何か』という疑問の答えを『言葉』で得たとして……それがいったい、なんだというのか……)


 ゴミスはこれまで、

 『形而上的な神の存在』を『理解しよう』などと思ったことがない。


 『目の前にある世界』と『その物理的な支配者』さえ理解していれば、それでオールオッケーだった。

 『決して満たされない世界でもがく』――それが、これまでのゴミスにとっての全てだった。


 ――だが変わる。

 今日から彼は……

 ゴミスは、


「ぅ……ぐ……」


 ボロボロで、血だらけで、息も絶え絶えで、

 けれど、それでも、


「……ゼノリカの薔薇……エキドナール・ドナ……様……」


 どうにか、片膝をつき、

 服従と忠誠の意を示し、


「俺を……あなた様の……剣にしていただきたく存じます……」


 ゴミスの中で起きた革命。

 それは、精神支配や洗脳などというしょっぱい改変ではなく、

 正式な『魂魄の手続き』を経た、

 心の変革。


 エキドナール・ドナという途方もない高みを知ったことで、

 全身の細胞が、心からの服従を望んだ。


 『それ以外は何もいらない』とすら思える衝動。


 これまでのゴミスは死んだ。

 まっさらに生まれ変わり、

 彼は、敬虔なるエキドナール・ドナの信者となった。


「受け入れよう。貴様にはその価値がある」


「……もったいない……お言葉……っ!」


 歓喜に包まれる。

 ゴミスの全てが満たされていく。

 涙があふれ、心が震えた。


「最初にハッキリと言っておく。自分が優れているから認められた――などという、しょうもない勘違いはするな。貴様の能力自体には、さほど価値はない。ゼノリカには、貴様と同等かそれ以上の者が数百単位で存在する」


「……っ」


 いまさら、ドナの言葉に疑いを持ったりはしない。

 しかし、ゴミスは、むしろだからこそ、心底から驚嘆した。


(俺と同等かそれ以上が……数百……)


 反射的に『そんなバカな』という想いが湧いてくるものの、

 ドナに心酔している魂が、その手の疑念を封殺してしまう。


(……ゼノリカ……ドナ様の組織……なんという、とてつもなさ……)


 なぜ、それほどの強大な組織がこれまで無名だったのか、

 と、さすがに疑念がわいてくるが、


(その辺は……おいおい理解していけばいいだけの話……)


 自分は、すでに『剣となること』を認められている。

 細かな理解は後でかまわない。



(俺は幸運だ……本物の高みに、出会えた……)



 歓喜が止まらない。

 出会えたと思えた。


 これまで『渇き』しか知らなかった心の器が、暖かな雫で満たされていく。

 何をしても満たされなかった魂魄がシンシンと温まっていく。


 ――こうして、ゴミスは、ドナの配下となった。

 何があろうと、決して裏切らない剣。


 そんな便利な剣に背を向けて、

 ドナは、


(主を煩わすなど、言語道断……使える道具は、全て回収し、使えないゴミはきれいに掃除する。さっさとこの世界を隅々まで捜索し、この『くだらない世界』に『裏ダンジョン・ゼノリカを縛っている鎖』を破壊する)


 どこまでもまっすぐな目で、

 世界をにらみつけていた。


 ドナの思考形態は、どんな時でも変わらない。

 ゼノリカに対するヤンデレ。

 つまりは、

 絶対的、神の狂信者。


(主を害するものを……その可能性を……私は許さない……)


 ゼノリカの穢れを払う闇の薔薇。

 九華十傑の第十席・序列三位エキドナール・ドナ。


 彼女のヤンデレは、とどまることを知らない。

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