救いのヒーロー。

救いのヒーロー。


『苦しい……辛い……これは、もうムリ……なぜ、私がこんな地獄に晒されている……私は、ただ……多くの命を守るために……必死に、これまで、ずっと、ずっと……なのに……なんで、こんなことに……どうして……苦しい……もう、イヤだ……』


 バグの性能はケタ違いだった。


 圧倒的な火力、圧倒的な魔力。

 おまけに、耐久が極端に高いタイプで、

 一体を殺すだけでもアホほど時間がかかった。


 『ゾメガ・オルゴレアム』や『ミシャンド/ラ』や『平熱マン』という、

 『ドナの視点』で言えば『ありえないほどの高み』にいる超越者たちですら、

 かすり傷しか負わすことができない異常なバケモノ。


 『絶対に無理だ』と誰もが思った。

 誰もが、当たり前のように絶望した。


『世界が終わっていく……奪われていく……私が守ってきたものが壊されていく……私の大事なものが……すべて……喰いつくされていく……イヤだ……壊さないで……お願いだから……やめて……』


 そんな『闇をも飲み込む地獄』の底で、


『誰か……』


 狂っていく絶望の中で、


『……助けて……』


 ――たった一人、

 ドナの慟哭に応えてくれたのは、




『あれ? ドナ、お前、もしかして泣いてる? うわ、マジ? 俺、お前が泣いてる所とか初めて見た。すっげぇレアじゃね? てか、お前も泣いたりとかするんだな。ははは……いやぁ、しかし、ドナよ……お前、涙が壊滅的に似合わないな。お前は、クールにキセルをふかしている姿が一番似合う。ていうか、それ以外は似合わん』




 この上なく尊き命の王センエース。

 すべての『弱い命』をその身に背負ってくれた神。

 この世でたった一人、

 『その他全員』の代わりに前を向いてくれた理想のヒーロー。



『セン様……なぜ、あなたは……立ち向かえるのですか……そんな……誰よりも、ボロボロになって……誰よりも苦しんで……一時も休むことなく……血反吐をはき散らしながら……こんな、終わるしかないと分かっている絶望を前に……もう、全員が死ぬしかないって地獄を前に……どうして……なんで……意味がわからない……理解できない……もしかして、あなたは【現状がもう詰んでいる】という事すらわからないほどバカなのですか? 私はあなたを買いかぶりすぎていたのですか?』



 立ち向かえるわけがない地獄。

 覆せるわけがない絶望。

 そんなことは、神もわかっているはずだった。

 わからないはずがなかった。

 なのに――


『ようやく気付いてくれたか。そのとおり。お前らは、常に俺を買いかぶりすぎている。お前らは、頻繁に俺を持ち上げるが、俺なんて、実際のところは、大したヤツじゃねぇ。ただの、ヤバみが深めのサイコパス。常人には理解不能の変態でしかない』


 センエースは、最後の最後の最後まで『狂人(英雄)』であろうとした。

 どんな時でも前を見続ける『ド変態(王)』であり続けようとした。

 『絶望に対して酷く鈍感なピエロ』の仮面をかぶり続けて、




『もう一歩、ぶっちゃけた話をするなら、俺にはお前らと違って保険があるからな。死んでも別の世界に転生するだけ。楽なもんさ。だから、死にビビることなく闘える。俺なんて、それだけのもんさ』





 神はいつも、雄大だった。

 超然としていた。

 飄々としていた。


 どんな絶望を前にしても、

 『俺にとっては大した問題じゃない』と笑ってみせた。


 ――みんな、わかっていた。

 ――それが演技だってこと。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る