闇色天国。

闇色天国。



「なんだよ、これぇええ! もう、わかった! 夢だ! これは絶対に夢だ! ありえねぇからなぁあああ! 全部、全部、ありえねぇええ! こんなわけねぇんだぁあああ! もういいから、さっさとさめやがれぇえええ! こんなクソみたいな夢ぇええええ!」


 叫ぶ。

 叫べる。

 サックリと首を斬られているのに、

 なぜか、死んでおらず、

 今も、激痛の中で、絶望を叫んでいられる。


 ――そんなゴミスに、

 ドナが、


「ありがたく思え。私のゴールドスペシャル『闇色天国』について教えてやる」


 穏やかな声で、


「簡単に言えば、『私から拷問を受けている者は、私の許可なく勝手に死ぬことはできない』――そういうスペシャルだ」


「……ぁ……ぇ……」


「首を斬られようが、全身の血を抜かれようが、心臓や脳を粉々にすりつぶされようが、何がどうなろうが、私の許可がない限り、決して死ぬことはできない」


「……」


「ついでに、この亜空間の強度についても教えておいてやろうか。一言で言えば、貴様程度の存在値では、どうあがこうと、絶対に破壊できないよう調節してある。よって、何をしようと、絶対に逃げることは出来ない」


「……」


「極端に口数が減ったな。というより、意識を放棄しようとしている節が見える。ふむ……首が飛んだままだと、あまりにも現実感がなさすぎて、『悪夢である可能性』を捨てきれないか……仕方ない。首から上と精神を少しだけ修正してやる」


 そう言って、ドナが指を鳴らすと、

 ゴミスの頭部が、


「ひっ、ひぃいいいいいい!」


 ケ〇シロウに秘孔でもつかれたみたいに、

 メキメキっと膨れ上がっていき、

 最後には、

 ボォンッッ!!

 と、豪快に破裂した。

 破裂の間際――ギリギリの寸前まで、

 ゴミスは、頭部が膨らんでいく恐怖と、

 ハッキリとした激痛を感じていた。


 ――そして、その直後、

 『首から上をなくしていたゴミス』の『首』から、

 ギニョギニョっと、気味の悪い感じで、

 ゴミスの首が生えてきた。


「ばはっ! げへっ!」


 血を吐きながら、血走った目で、

 必死に呼吸をするゴミスに、

 ドナは、


「さあ、まだまだ地獄ははじまったばかり。というわけで――調教の続きといこう」


 そう言って、ドナは、ゴミスに近づいていく。


「ひっ……ひぃ!」


 逃げようとするゴミス。

 恐怖で心が真っ暗になっている。


 おかしくなりそうな頭を抱えて、

 それでも、どこかで、

 『この局面を乗り切ろう』と回転している、鍛えられた脳みそ。

 この胆力は、精神を修正されたから――という理由だけではない。

 闇社会で必死に生き抜いてきた者の意地。


(こ、こうなったら、犬のふりをするしかない……屈辱的だが……まずは、屈したふりをして、当面の安全圏にもぐりこむ……『全宮の革命派』についたところで未来なんてない。保守派が完全院に調停を依頼してあっけなく鎮圧。それが確定している未来。そして、そうなった時、悲惨な割をくうのは下っ端。わかっている、そんなこと。しかし、こうなった以上……うまくコウモリとして立ち回って『利』を奪い取る以外に方法はない……クソみたいなギャンブルだが……しかたがない)


 裏社会で、一つの巨大組織の代表として生きてきた経験は伊達じゃない。


 どうすれば、最終的な利を得られるか。

 その高速演算が立てられるから、ゴミスはシロアリの代表となった。



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