俺を喰らえ。

俺を喰らえ。



「貴様に許された選択肢は二つ。従順を貫いて手厚く飼われるか、反抗し続けて永遠に苦痛を味わい続けるか。以上。さあ、どちらを選ぶ?」


 あまりにも不自由がすぎる二択。

 そんな屈辱以外の何物でもない二択をつきつけられて、

 ここまで冷静さを欠かずに頑張ってきたゴミスも、

 さすがに、


「……な……なめんなよ……ボケが……こっちは……真摯に対応してやってんのに……さっきから……ナメたことばっか言いやがって……こっちにも……我慢の限界ってのが……」


 『自分をこんな状況に叩き落しやがった運命』に対する怒り。

 『この状況をどうにか出来るだけの力を持っていない自分』への怒り。

 『ふざけたことばかり言ってくるクソ女』への怒り。


「人間らしい『まともな話し合い』の一つもできないクソサイコパスがぁ……」


 理性で抑え込んでいたものが、グツグツと沸いて、

 神経が揺らいで、心に亀裂が入って、魂が歯ぎしりをして、


 ――だから、


「シアエガァァァァァァ!!」


 ゴミスは、バロールをにらみつけながら、そう叫んだ。

 できればやめておきたかった――最後の手段を選択する覚悟を見せる。


「俺をくれてやる!! お前の道具になってやる! だから、俺を喰らえぇええええええ!!」


 『このドナとかいうサイコパスは、確実に自分(ゴミス)を殺すだろう』――そう理解したからこその決断。

 Cレリックに飲まれてしまえば、

 基本的には自我を失い、Cレリックの道具になってしまう。


 道具の道具になるなど、絶対に嫌なのだが、

 しかし、このまま殺されるのも絶対に嫌。


 究極の選択。

 選ばせたのはドナ。


「さあ、シアエガ! 俺の全てを――」


 と、そこで、バロールが、


「すでにシアエガは、私とひとつになっている」


 なんの感情もない声で、そう言い捨てると、

 ゴミスは、


「なっ……ならば、その猿顔を食らいつくし、俺にのりかえろ! 俺の方が上位個体だ! そんな猿顔よりも、俺の方が強いに決まっている!!」


 言いながら、無防備にもドナに背を向けて、バロールに殴り掛かった。


 悪くない速度。

 キレも鋭さも、なかなか悪くない。


 ――だが、もちろん、


「私と踊っている最中に浮気とは……随分と勇気がある」


 ズパァっと、

 凄惨な音が響いた。

 脳内にビリビリビリィイイイっと、極悪な痛みが走った。


 視界がグルングルンになって、

 地面に激突して、

 そして、ようやく気付く。


 ――首をはねられた。



「あっ……あああ! あああああああああああああああ!」



 悲鳴がもれた。

 理解できなかった。

 恐怖とか、絶望とか、色々な感情の中で、


「体ぁ! 俺のぉ! ああああ! うそだぁああああ! ああああああ!」


 ゴミスの目線の先に、

 『首から上がなくなっている自分の体』があった。


「なんだよ、これぇええ! もう、わかった! 夢だ! これは絶対に夢だ! ありえねぇからなぁあああ! 全部、全部、ありえねぇええ! こんなわけねぇんだぁあああ! もういいから、さっさとさめやがれぇえええ! こんなクソみたいな夢ぇええええ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る