混乱がねじ曲がっていく。

混乱がねじ曲がっていく。


(アモンの発言が、すべてが事実なら、アモンのゼノリカ内での現状は下っ端で、アモンの願いは『九華という幹部組織への昇格』……九華十傑……その名称は、まさか、アモンの上位者が9~10人いるってことじゃ……ぃ、いやいや、さすがに、それはない! いくらなんでも、それは、妄想がすぎる。こんな圧倒的な強さを持つ者が二桁の単位で存在する組織など、五大家以外にあってはいけない……)


 時間の経過とともに、混乱がねじ曲がっていく。

 理解できないという領域から、理解したくないという領域にステップアップ。


 目の前にいる男――アモンは、間違いなく最強格の存在。

 この男がトップのはず。

 それが普通。

 それが常識。


 そうでなければおかしい。

 ゴミスを超えるほどの武を持つほどの男が、

 新興宗教で下っ端をやっているはずなどない。


 ゴミスは、この世界で最高格の存在。

 きわめて希少な超越者。


 完全院のランクの中でも、中の上に位置する超人。


 『そんな自分』――ゴミスを超えるほどの力を持つ者が、

 名前も聞いたことがない組織の下っ端でいるわけがない。



「アモン……俺は『お前の敵ではありたくない』と本気で思っている。だから、胸襟を開いて話し合おう。見栄やハッタリはなしで、スムーズに話し合いを進めたい」


「何が言いたいの?」


「Cレリックは諦めよう。ガタラの件もなかったことにする。お前は強い。ゼノリカ教というのがどういうものか、イマイチわからないが、おそらくは、それなりに大きな組織なのだろう。どこに潜んでいたのか知らないが……ここまで表に出なかったのは、なにか大きな理由があるのだろう」


 ゴミスは慎重に言葉を選びながら、

 頭の中で、情報を整理しつつ、


「シロアリとしては、ゼノリカと杯を交わしたいと思っている。無駄な争いはやめて、たがいの利益についてのみ考えようじゃないか。ウィンウィンの関係こそが、いつだって、世界の正解なんだ」


「その意見には賛成だね。ウィンウィンの関係が最も美しい。けど『そういう契約』って、お互いの力量が近しい場合にしか成立しえないんだよね」


 アモンは、ニヤニヤと小バカにしたような笑いを強めて、


「三下の犯罪組織ふぜいが、栄えあるゼノリカと対等に契約を結ぼうだなんて、はっ、ちゃんちゃらおかしくって笑っちゃうね」


「……言葉が過ぎないか? まさか、シロアリと完全院の関係を知らないわけではないだろう?」


 『シロアリが完全院の犬である事』は、もちろん、一般人は知らない。

 完全院は正義で、シロアリは悪。

 それが世界の常識。

 それこそが、完全院によって作り上げられた筋書き。

 単純明快なストーリー。

 シロアリという恐怖から守ってくれるヒーローが完全院。

 だからこそ、完全院に徴収される税金が高くなっても文句は言えない。

 搾取のフローチャート。


 ――だが、今、この瞬間において、

 ゴミスは『盲目なハリボテの常識』などかなぐりすてて、


「もう、探り合いはウンザリだ。本当に、腹を割って話をしよう。これから俺は、完全院の構成員として話を進める。お前の所属はどこだ? 全宮か? それとも罪帝か?」

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