五大家。

五大家。


「かかってこい。私に勝てたら開放してやる」


「……勝てたら開放してやる、だと? ふざけたことをぬかしやがって。今からお前らは俺に殺されるんだよ。男は徹底的に痛めつけて殺す。そこの女二人は、適当に犯したあと、性奴隷として売り払う。シロアリに手を出した罰の重さ……思い知れ」


 そう言って、ガタラは、自身のオーラを開放した。

 十分に魔力を練り上げ、

 そして、


「死ねや、バカがぁ!」


 バロールに殴り掛かった。



 ――ガタラは、この世界において『かなり強い部類』に入る。

 シロアリは実力主義の超大手武闘派ヤクザ。

 第一アルファのヤクザのように『金を集めるのが得意なだけのザコ』が成り上がれるヤワな組織ではない。


 ガタラは『血で血を洗う裏社会』で幹部にまで駆け上がった強者。

 狂気と腕力だけがモノを言う地獄で生き残ってきたスジ者。

 そんなガタラだが、


「……ぇ……」


「どうした? 『まずは様子見から』ってパターンか? そういうのいいから、最初から気合を入れて殴り掛かってこい」


 様子見などしていない。

 ガタラは、今、全力でバロールの顔面を殴りつけた。

 『一撃で決めるつもり』の『まっすぐな全力』だった。


 オーラと魔力を全力で練り上げて、

 きっちり、しっかりと、拳を突き出した。


 しかし、バロールはビクともしなかった。



(こ、この猿顔……ま、まさか……『代表』級……)



 全力で殴ってもビクともしないバロールの姿に、

 ガタラは、シロアリの代表『ゴミス』を重ね合わせた。


 ゴミスはケタ違いに強く、ガタラが何をしても相手にならなかった。

 圧倒的なゴミスの力にほれ込み、

 ゴミスの力になりたいと願い、これまで、遮二無二頑張ってきた。


 そのゴミスに匹敵するかもしれない強者。

 そんなバケモノを前にして、

 だからこそ、ガタラは冷静に、


(……こんな猿顔……『裏の世界』では見たことがねぇ……)


 目の前にいるバケモノが『誰』なのかを『正確』に見極めようとする。

 ガタラは、シロアリの幹部だけあって、

 裏での顔はそれなりに広い。

 『あるていど』以上に、強者の噂は耳にしている。


 ガタラは、生まれてから一度も『エリアA』の外に出たことはないが、

 『裏の上層部』で生きていれば、イヤでも『世界の情報』は耳に入ってくる。


 ※ エリア外に出るのが禁止というわけではないが、

   各エリアには、必ず、そのエリアを縄張りにしている組織がある。

   『荒し扱い』されて面倒なことになるのを嫌う構成員は、

   基本的に、外には出ない。


 ガタラは間違いなく情報通の部類。

 だが、こんな猿顔の噂は一度も聞いたことがない。


(となると、おそらくは『五大家の類縁』……)


 五大家。

 それは、すなわち、雲の上。

 各エリアを『完全支配』している五つの巨大グループ。

 この世界において『その存在を知らぬ者』は絶対にいないが、

 『直接会ったことがある者』はめったにいない、真なる雲の上の世界。

 でかいニュースで名前を見るか、軽い噂をチョロっと聞く事くらいしか縁がない別次元の相手。


(……『五大家の者』が相手となれば、俺の力じゃ、どうしようもねぇ……)


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