ヤクザ者の矜持。

ヤクザ者の矜持。


「……ど、どういうつもりだ……俺に手をだして、ただで済むと――うぐっ!」

「凄む必要はないって言ったよね? 時間の無駄だから、こっちの質問にだけ、バカみたいに答えてくれる?」



「……ふ、ふざけんじゃねぇ……俺はなぁ……シロアリの――ぐふぅ!」



 バロールが酷くイラついた顔で、

 『しつこく名乗ろうとしたガタラ』の頭をつかみ、


「だからぁ! 自己紹介はいらねぇって言ってんだろぉがぁ!」


 腹に響く大声で怒鳴りつけた。

 ほとんど猛獣の咆哮。

 ガタラは、その大声に、一瞬だけ怯みかけたが、


「で、でけぇ声を出すんじゃねぇ……耳が痛ぇだろぅが」


 『ヤクザ者としての矜持』を見せてきた。

 長年、裏社会で生きてきた者特有の強マインド。

 『ビビっていませんよ』を過剰にアピールしたことで、威圧のトーンが下がる。


 その『下がったトーン』に対してだけは満足げに、

 バロールが、平坦な声で、


「じゃあ、二度とわめくな。質問するから答えろ。問一、コスモゾーン・レリックについて、お前が知っていることを全て答えろ」


「……はぁ?」


「聞こえなかったようなので、もう一度言おう。ただ、何度も何度も言いなおすのは面倒だから……今度は、耳を大きく開いて――」


 言いながら、バロールは、


「ぎゃああああああ!」


 ガタラの左耳を引きちぎってから、


「お前が知っているコスモゾーン・レリックに関する情報を、あますことなく、全部、言いやがれ」


 ダラダラと血が流れている耳もとで、

 ゆっくりと、慈愛のカケラもない冷たい声を投げかけるバロール。


「ちなみに、次は右耳。その次は、鼻を削って、次は目をつぶす。それでもしゃべらなければ、腕、足、性器の順番でつぶしていく。お前が、しゃべるまで、私は、お前の体に聞き続けることを、やめない。最悪、情報が聞き出せなかったとしても、こちらはさほど困らない。次の獲物として、お前のお友達を狙うだけ。簡単な話」


「ぅぐうぅ……くぅ……」


 奥歯をかみしめ、激痛に耐えているガタラ。

 『オラつくこと』が仕事のヤクザ者である以上、

 みっともなく泣き喚くことはできない。


 ガタラは『そこらのチンピラ』ではなく、

 最大手反社会組織シロアリの幹部。

 ――ゆえに、どんな時でも無様はさらせない。


「もし、今、素直に教えてくれたなら、お前のことは五体満足の状態で解放する。さあ、というわけで、教えてくれ」


「……く、くそがぁ……シロアリを……俺を……ナメんじゃ……」


「まだいうか。……さすが、幹部。根性はそこそこ。よし、手順、変更」


 そう言うと、

 バロールは、ガタラを縛っている拘束具を外す。


 自由になったガタラは、


「ど、どういうつもりだ……」


(……『最上級裏組織』の『幹部』であるこいつが『どのくらい強い』のか……それも『私たちが欲している情報』の一つ。というわけで……)


 そこで、バロールは武を構えて、


「――『私』を教えてやるから、かかってこい。私に勝てたら開放してやる」


「……勝てたら開放してやる、だと? ふ、ふざけたことをぬかしやがって。拘束さえ解かれたらこっちのもの。『現実』を教えてやる。今からお前らは俺に殺されるんだよ。男は徹底的に痛めつけて殺す。そこの女二人は、適当に犯したあと、性奴隷として売り払う。シロアリに手を出した罰の重さ……思い知れ」

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