叱咤。

叱咤。


「絶対に強制はさせるな。圧力をかけて『行くしかない』みたいな空気にするのもなしだ。あと、カナリア扱いはダメだ。まずは『俺』がこの世界について調べる。その上で、天下の連中を出しても問題ないと判断した場合のみ出撃命令を出す。これは過保護とかじゃねぇ。純粋な命令だ。『俺の命が最優先だ』と言ってくれたことには感謝する。だが、俺の命令を全て無視するなら、こちらも一切譲歩しない。いいな?」


「不要なご配慮です、師よ。ゼノリカに属する者は――」


「命令をしている。返事をしろ。意見は求めていない」


 正式な叱咤を受けた平は、


「失礼いたしました」


 正式に陳謝してから、

 恭しく頭を下げて、


「おおせのままに」


 センの命令を飲み込んだ。


 その姿に対して、


「それでいい」


 コクリと頷くと、

 センは、


「護衛は10人以下に抑えろ。『別動隊の編成』は任せるが、しかし、さっきも言った通り『実際に出撃させるタイミング』は俺が決める。俺の命令がないうちは絶対に動かすな。異論は認めない――それでは、行動を開始しろ」


「御意」


 返事をしてすぐ、平は、行動を開始した。


 センを守るための選抜部隊。

 『神の盾』を見繕うという大仕事にとりかかる。


(ゼノリカの守りを固めることも師の望み。……師の命と比べてしまった場合、ゼノリカという箱に価値はない……が、師の命と比べさえしなければ、ゼノリカは守るべき光……バランスが大事になってくる……)


 などと極端なことを考えながら、

 平は、裏ダンジョン・ゼノリカへと戻っていった。


 残されたセンは、


「……だっるぅ……」


 心底鬱陶しそうな顔でそうつぶやいていた。


「だから嫌なんだ……組織の長なんて向いてねぇ……わかってんのに、なんでこんなことになるかね……はぁ……」


 その発言を受けて、

 それまで黙っていたアダムが、


「主上様が『命の頂点に立たれているから』かと存じます。主上様は『トップに立たざるをえない器の持ち主』……ただ、それだけの事かと」


「そんな『謎のハンデ』を背負って生まれてきたつもりはねぇよ……あー、ほんと、めんどくせぇ。俺は『頭おかしい孤独主義者』だっつってんだろうが、ボケが……それなのに、どいつもこいつもよぉ……」


 そこで、シューリが、


「なら、ゼノリカの面々を皆殺しにしたらいいじゃないでちゅか。そしたら、今すぐにでも、独りに戻れまちゅよ。なんなら、やってきてあげまちょうか? 『お兄のために働く』なんてまっぴらごめんでちゅけど、そのミッションなら喜んでやってあげまちゅよ」


「……前から言おうと思っていたんだけど、お前、ちょっと、ゼノリカに対して無関心すぎねぇ? ちゃんと確認しておくけど、俺が死んだあとは、お前が後を継ぐんだからな? マジで、ちゃんとわかっているよな? この約束だけは、絶対に反故にするんじゃねぇぞ? ……言っておくがなぁ、俺には『お前にお願いしたいこと』が、ぶっちゃけ、山ほどあるのに、それら全部を我慢して、ゼノリカの引継ぎをお願いしているんだ。そこのところを忘れるなよ」


 忘れるわけがない。

 なんせ、だからこそ、シューリは、ゼノリカを恨んでいるのだから。


「もちろん、わかってまちゅよー(棒)。お兄が死んだあとは、オイちゃんが全身全霊をかけてゼノリカを守っていきまちゅー(棒)」


「本当か? 絶対だな?」


「しつこいでちゅねぇ……あ、もしかして、それ、いわゆる『押すな、押すな』ってやつでちゅか? OKでちゅ! 完璧に把握しまちた!」


「ちゃうわい!」

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