天使軍。

天使軍。


「あいつの名前、確か、P型センキー・ゼロオーダーだったか? あの『敵』は『俺たち』が狩るから、ガキは引っ込んでいろ」


 言いながら、

 クスオは、パチンと瀟洒に指を鳴らした。


 すると、

 周囲に黄金のジオメトリが無数に顕現して、

 そこから、1000近い数の『フル武装天使』が出現した。


 その大量の天使は、

 パっと見こそ『量産型』だが、

 しかし、内包されているオーラの量は、どいつもこいつもハンパじゃなかった。


 狂気的な話だが、

 1000近い天使全員、

 存在値『1兆』の壁を越えていたのだ。


 その圧巻の光景を受けて、

 自分という現実しか知らない『ゴート・ラムド・セノワール』は、

 たまらず、


「……な、うそだろ……なんだ、この力……この数……」


 おののきながら、声を漏らした。


 それに対し、

 クスオは、瀟洒に、


「最後の最後まで、俺についてきてくれた『自慢の部下たち』だ。根性も才能も実力あって、かつ、俺のプライマル・プラチナスペシャル『狂騒神曲(きょうそうしんきょく)』によって存在値が爆上げされている最強の軍隊。そして……自分で言うのもなんだが、俺は、こいつらを世界中の誰よりもうまく扱うことができる至高のマエストロ」


 永き時と業を積み重ね『磨き上げてきた狂気』を並べながら、


「誰にだって歴史はある。あまたの地獄や絶望に触れて、傷だらけ・泥だらけになりながらも、どうにかこうにか、歯を食いしばって『多くの闇』を乗り越え、強く美しく磨かれたのは、決して『この物語の主人公一人だけじゃない』ってこと」


「……」


「最後の最後の大一番で俺は敗北し、主人公の権利は失った……が、しかし、かつて……俺が『世界のメイン』を張った時代が、確かにある」


 天童久寿男は、かつて、世界の中心だった。

 『すべての命』が抱きし『運命を覆す期待』を背負い舞った時代があった。


 だが、クスオは負けた。

 『大いなる混沌』に敗れ、彼はただのソウルレリーフとなった。

 カタストロフによって裂かれ、全てを奪われた彼は、なにも持たない抜け殻となった。


 しかし、『執念』は、まだ残っていた。

 その頑強な遺志は、『ゴート・ラムド・セノワールの可能性』という媒体に宿り、

 いま、P型センキー・ゼロオーダーという破格の脅威に、全身全霊で牙をむく。


「俺はもう世界の主役じゃないが……『俺の闘い』はまだ終わっていない。俺の意思は、俺の想いは、俺のあがきは……まだ続いている」


 そうつぶやくと、

 クスオは目を閉じて、


「俺の役目は、究極超天使『天童久寿男』として、ゴート・ラムド・セノワールの翼となる事――」


 把握し、理解し、

 心に刻んでから、

 自分自身に宣言する。


「――任務了解。出撃する」


 宣言と同時に、カっと目を開き、

 バっと、剣の翼を広げてみせた。

 気合の号令。

 戦闘開始の合図。


 テレパシーによる完全な意思疎通で、

 天使軍は、一個の生命のように躍動する。


 いちいち、『命令を受けて~了承して~』などのラグい手順を踏んだりしない。

 行軍も突撃も、コンマフレームで行われるという戦争的洗練の極地。


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