お前は誰だ?

お前は誰だ?


「くるしゅうない」


 その一言で、

 脆弱な牢獄は、己が定めの完遂を解し、

 スゥウっと、虚空へ熔けていった。


 パラパラと、チラチラと、粒子となって、

 まるで柔らかな風に吹かれているかのように、

 スゥと、音もなく流れていった。


 粒子の残滓がまたたく中で、

 センエースは、

 『ピーツ』『ドコス』『エーパ』『カルシィ』『パガロ』の『執念』を補足し、


「……ミシャたちに加勢してくれたこと、心から感謝する。お前たちの執念、この俺が受け止めよう」


 そう言って、

 彼らを、自分の『中』へと受け入れた。

 『ソル・ボーレ』という特異な絶望によって生じた『彼らの死』は、今のセンエースでも『なかったこと』にはできない。

 だが、その死を昇華させる事なら可能。


 希望と、友愛と、誇りと、優しさを、

 センエースは、丸ごと包み込む。

 調和され、一致して、

 そして、すべてがセンエースになっていく。






 ★






 ――粒子の残滓が晴れた時、

 センエースの目の前には、

 P型センキーが立っていた。


 その向こうでは、アダムとシューリの二人が、

 『象(かたち)を失ったミシャ(業)』のことを想いながら、

 ツーっと、涙を流していた。


 そんな彼女たちを見たセンエースは、

 とても、厳かな、

 しかし、とても穏やかな声で、


「安心しろ……」


 凛と響く、英雄の声。

 この上なく尊き神の王は、

 奏でるように、


「ミシャ(業)は、俺の中にも、ミシャ(本体)の中にもいる……これは、感傷の慰めではなく、ただの事実」


 センエースの言葉を受けて、

 アダムとシューリは、

 ……コクっと、小さく頷いた。


 彼女達も、また、

 『全て』を思い出したわけじゃない。

 というより、本当のところは、何も理解できていない。


 ただ、解(わ)かる。

 失ってはいけないもの。

 決して、無くしてはいけないもの。


 センエースと、彼女達の、根源的なコアを支えている原初の歴史。



 ――なんて、謎だらけの余韻に浸っていると、

 独(ひと)り、蚊帳の外にいるP型センキーが、






「……お前は、誰だ?」






 まるで、超一級の舞台。

 役者も脚本家も、全員、幽玄でキ〇ガイ。


 問われた神は、

 ゆっくりと目を閉じ、

 輝く息継ぎを経て、

 パっと目を開き、


「俺は、究極超神の序列一位。神界の深層を統べる暴君にして、運命を調律する神威の桜華。舞い散る閃光センエース」


 この上なく尊い口上。

 頂(いただき)にたどり着いた神の名乗り。


 それを受けて、

 P型センキーは、一度うなずいてから、





「……そして?」





 そう問われた『理想の英雄』は、


 美しい予定調和に身をゆだねて、上品に見栄を切りなおし、

 そのままの『厳かな流れ』を断つことなく、

 果てなく優雅に、





「私は、運命を殺す狂気の具現。永き時空を旅した混沌の狩人。月光の龍神??????」





 ラストに自主規制音の入った『不完全な名乗り』を受けると、

 P型センキーは、


「……はは」


 一度、からっぽの笑みを浮かべてから、


「……かぁぁっくぃい」


 そう言うと、

 そのまま、


「厄介なイヤがらせはもう消えた……昇華されて、満足したってことか……」


 そうつぶやいてから、




「……別にもう意味ねぇ……なのに、許容量以上の運命力を削るべきか否か……いや、もちろん、やるべきじゃない。自粛すべき……わかっている……俺はバカじゃない……」




 数秒悩んでから、


「けど……まあ、でも……」


 アイテムボックスから、一枚の禁止魔カードを取り出し、


「さすがに、このままじゃ、おわれねぇからなぁ。せめて、一発だけでも……」


 そう言ってから、スっと息を吸い、


「禁止魔カード、使用許可要請」

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