話が違う。

話が違う。


「――アスラ・エグゾギア‐システム、起動!!」


 宣言すると、

 ゼンの全てが、『殺戮の神』に包まれた。

 この世の全てを殺さんとしている、狂気的な威容。


 ※ 以降、エグゾギアを使っているさいのゼンのことは、

   『阿修羅ゼン』もしくはそのまま『ゼン』のどちらかで表記していきます。



 フッキと融合した完全状態ではなく、

 素のアスラ・エグゾギア。


 ――阿修羅ゼンは、

 禍々しい剣を召喚して、


「まずはアイドリングだ……準備運動の『軽い慣らし』で、あっさり潰れてくれるなよ」


 言って、下半身に力を込めた。

 淀(よど)みなくエネルギーが伝わって、軽やかに駆動する。


 豪速の瞬間移動。

 次元を駆け抜け、

 その流れの中で、


「一閃!!」


 スッと、まっすぐに、剣を横に薙いだ。

 グリムアーツ一閃。

 それは、現状のゼンが、唯一、自信をもって放てる汎用性の高い一撃!


 愚直にアホほど振ってきた剣技!

 信じられない速度の『飛ぶ斬撃』!

 空間を切り裂く、凶悪な一手!!


 ――それを、



「ぐぬっ!!」



 P型センエース2号は、その手に召喚したオーラソードで受け止めた。

 ギィィィンと、オーラのはじけ合う音がして、


「うらぁあ!」


 最後は、P型センエース2号に裂かれる形で、飛ぶ斬撃は消失した。


 ビリビリと痺れている両腕を一瞥してから、

 P型センエース2号は、心の中でボソっと、


(……な、なんだよ……全然悪くないじゃないか……速度も火力も……)


 困惑した顔で、続けて、


(話が違う……この時点のゼンは、もっと明確なクソザコじゃなかったのか……)


 ツーっと、冷や汗が頬を伝って、


(ま、マズいな……これ、まさかの互角じゃないか? いや、もしかしたら、俺の方が……わずかに弱い……?)


 純粋な焦りが生じた。

 思考が乱れる。


 そんなP型センエース2号の感情など考慮せず、

 阿修羅ゼンは、ヤンチャな顔で、


「いいねぇ! じゃあ、次は、少しギアを上げていくぞ」


 そう言ってから、グっと腰を落とし、

 両目を閉じて、

 ――『コンマ2秒間』、丹田に集中し、エネルギーを溜めてから、


「波動一閃!!」


 無邪気に放たれた一撃は、

 先ほどの一閃よりも、鋭さが数段階ほど上だった。


「うっ、うぉおおおお!!」


 その鋭さに対し、余裕をもった対応はできなかった。

 P型センエース2号は、冷や汗につつまれながら、

 どうにかこうにか、全身をひねり、右横へと飛んだ。

 ギリギリの緊急回避。

 正式な紙一重。



(ゼンの波動一閃の溜め時間は、五秒だったはず……どうして……いや、どうしてもクソも……平時の戦闘でも使えるよう、ブラッシュアップしただけの話……)



 五秒の溜め時間など、まともなタイマンではなかなか稼げない。

 なら、ビルドを組み直して、使えるように変更する。

 当たり前の話。


 P型センエース2号は、

 内心の焦りを悟られないよう、

 平常を装いながら、


「……思ったよりも強いな、ゼン。予想していた値を大幅に超えている」


「……『予想していた値』って……絶対に初対面なのに、なんで、そんなパワーワードが出てくるんだよ……あんた、マジで、何なの?」


「今の俺はP型センエース2号。それ以上でも、それ以下でもない」


「……なんで、そのフワっとした一言で自己紹介が成立すると思えるのか、その精神状態が一番の謎だけど……まあいいか」


 小さな溜息を挟んでから、


「さてさて……いい感じに魂も温まってきたことだし……そろそろ、本格的に殺し合ってみようか」


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